'05 新人発表事前抄録

咬頭嵌合位の不安定が疑われた症例
A case report of prosthetic treatment which had the dual bite
野村雄一(包括歯科医療研究会:卒後9年)

【要旨】
   卒後8年がたちました。同じような主訴を持つ患者さんでも、一人一人の既往や原因は異なり、個別対応の難しさに悩んでいる毎日です。スタディーグループの諸先輩方の長期経過症例を見ると、経過観察の重要性も痛感します。
   今回提示する症例も個別対応の難しさと今後の経過観察の重要性を再認識させられた症例です。症例は下顎臼歯部欠損でパーシャルデンチャーを装着しています。咀嚼側は左側ですが、咬頭嵌合位で左側前歯部に咬合接触が認めらず、右側前歯部に認められます。その現症が原因と思われるフレミタスが上顎中切歯に起こっています。動揺歯を改善するため咬頭嵌合位を規制しテンポラリーで経過観察を行いました。
   問題点、反省点も多いと思いますが、諸先生方の御指導を賜りたいと思い発表させていただきます。
症例
患 者:68才 男性
初診日:平成13年5月
主 訴:右下の歯がとれて物が咬めない
歯 式: アイヒナーB3

【結論】
   動揺のある歯牙を連結する事もありますが、テンポラリーで経過をみた結果、上顎中切歯は動揺も消え単独歯での処置が可能になりました。動揺がおさまった要因としましては、咬頭嵌合位を規制したことにより動揺歯への負担が軽減されたためだと考えています。規制することによる外傷性咬合も心配しましたが、テンポラリーを用いて経過観察をおこない問題のないことを確認しました。下顎においては以前に使用していたパーシャルデンチャーとほぼ同タイプのものを装着しています。
   今後は不安要素をかかえた前歯部に注意しながら経過観察を行っていきたいと考えています。
キーワード:【dual bite】【前歯部負担】【経過観察】 


多数歯修復が必要であった全顎補綴の症例
A case of fullmouthreconstruction which required for crown repairment for numerous teeth 
日高 大次郎(救歯会:卒後10年目)

【要旨】
   全顎補綴の症例は、歯内療法から歯周治療、補綴治療とすべての技術が必要です。その前提として、症例写真、X線写真、形成、印象など基本的治療が必要であり、診断処置方針、治療計画など行うべき事はたくさんあります。
   本症例は、卒後4年目に取り組んだ全顎補綴の症例ですが、当時は1歯単位の治療でも悪戦苦闘していたので、診査診断に甘さが見られ、治療技術の稚拙さもあり、長期の治療期間を要しました。
 本症例は、歯周炎、歯根破折、歯内歯周病変、二次カリエス、不適合な補綴物が見られ、多数歯修復が必要な症例でした。歯内歯周病変で抜歯になった部位には、智歯を自家歯牙移植し、5年経過しようとしています。また、歯軸の改善や、アップライトを目的に矯正治療をおこなっております。結果として、全顎的な治療となりましたので、1歯単位の治療もさながら治療計画の立案や咬合再構成の行い方など多くの知識、技術が必要であり、苦戦しました。
 本症例は、テンポラリーでの煮詰め方、全顎に及ぶ印象採得、補綴物製作にずいぶん苦労しました。一連の治療の流れを考察を交えながら発表させていただきたいと思います。

【結論】
今回の症例は精一杯行ったつもりですが、4年の治療期間がかかり、自らの診断力や決断力のなさがあったように思います。咬合再構成における第一顎位の再現は重要ですが、今回の症例はテンポラリーで煮詰めた期間も長かったこともあり、第一顎位を的確に再現できたように思います。しかしながら、セメンテーション後や術後にわずかですが咬合接触の変化が見られてきており、間接法の難しさを実感しています。今後も注意深く経過観察していきたいと思います。
キーワード:【自家歯牙移植】【テンポラリーレストレーション】【咬合再構成】 


骨欠損に3つの対応をした一症例
Three different approach for periodontal bone defect 
川瀬 恵子(火曜会:卒後12年)

【要旨】
   開業してまもなく4年が過ぎようとしています。少しずつですが自院で歯周病治療を行った患者の術後経過がみれるようになってきました。
   今回の発表では、大臼歯に存在する垂直性骨欠損に対し、その骨欠損形態に応じたアプローチを行った一症例を報告させていただきます。
   主訴である左上第一大臼歯は抜根と矯正的挺出で、4壁性骨欠損の右側上下第二大臼歯は咬合調整と自然挺出で、3〜2壁性骨欠損の左下第一大臼歯は歯周外科で、それぞれ改善を試み、現在は安定した歯周組織になっています。
   治療と経過観察の中で感じ、考えたこと、具体的には骨欠損形態の左右差、パラファンクションなどについてもお話しし、御意見をいただければと考えています。

(患者概要)
初 診:02年7月
主 訴:左上第一大臼歯の腫脹・疼痛
年 齢:51歳女性
性 格:まじめ
職 業:銀行員

【結論】
●資料から骨の欠損形態を想像して処置を考えていくことが重要であることを学びました。また、骨の欠損形態により行うべき処置が違うことを実感しました。
●患者の回復力の高さに助けられた症例と感じています。
●力の解放=切削、抜髄→自然挺出と思いこんでいましたが、この症例を通じて咬合調整も力のコントロ−ルとして重要であると実感しました。
キーワード:【矯正的挺出】【自然挺出】【歯周外科】 


顎位・ガイドを修正して歯周組織の安定を図った症例
A case report of treatment by correction of the mandibular position and anterior guidance for a patient with severe chronic periodontitis. 
澤田 雅仁(新潟月穂の会:卒後16年)

【要旨】
患 者:55歳 女性
初 診:2002年2月8日
主 訴:「あごが疲れる」「歯周病が進行している気がする」
歯 式:

   初診時の口腔内は全顎的に中等度〜重度の歯周疾患に罹患しており、咬頭嵌合位は不安定。特に上顎44は局所的に深い垂直性骨欠損が認められ、咬合接触時に大きく動揺し、排膿腫脹をきたしていた。また下顎の骨隆起、頬粘膜の圧痕など口腔内の状態と問診からパラファンクションの存在が疑われた。
   スプリント治療を行いながら歯周治療を施し、症状緩和後、適正な顎位を模索しながらテンポラリーに修正を加えていった。
   咬頭嵌合位が安定した後、上顎33の咬耗した舌面をコンポジットレジンで形態を回復することによって、ガイドを付与した。
   安定した咬頭嵌合位およびガイドが付与された状態でのプロビジョナルを作製、経過観察後、最終補綴物に移行した。
   歯周組織は改善がみられ、現在まで大きな問題なく筋症状の再発も認められない。

【結論】
・適正な顎位と安定した咬頭嵌合位およびガイドの付与により歯周組織の安定が図られた。
・側方運動時の臼歯部離開を得ることは臼歯部に対する有害な側方力を回避できる。
・ガイドは機能的な臼歯部咬合面形態を得るためにも必要である。
・適正なガイドは咀嚼筋の過緊張を軽減することにもつながる。
キーワード:【顎位】【咬頭嵌合位】【ガイド】 


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