'07 臨床歯科を語る会概要

全体会
 下川公一先生特別講演

上顎骨歯槽弓は、本来顔面頭蓋の左右均等な所定の位置に存在するが、天然歯牙は必ずしもそこに正しくあるとは限らない。様々な発育過程の中で歯列不正がおこると、顔面頭蓋と上顎骨歯槽弓の間で、三次元的なずれがおこる。そしてそれは、咬頭嵌合位での下顎の変位を招くために、顔貌のゆがみとして現れてくる。
下顎骨は顔面頭蓋に位置する上顎骨と、左右の関節との間で、天然歯牙を通じて咬合を営む。側頭下顎関節(TMJ)は下顎骨と側頭骨で形成されているが、顔面頭蓋と上下歯列弓が咬頭嵌合位で、三次元的に正しい位置にあれば咬合としては安定している筈である。演者は歯牙移動やGBR、インプラント治療ではその概念が大変重要であると考えている。咬合治療を通じて、顔貌の変化が、咬合治療に多く臨床ヒントを与えてくれる。演者の咬合治療における治療概念を記録ビデオを呈示して術前、術後を比較しながら解説を加えてみたい。


分科会

担当:楡井・山口

健全な永久歯による良好な咬合状態を育成する事を目標に、乳歯列以前の段階から小児の口腔を管理下に置くGPには、最初に咬合異常の兆候に気づく機会が多いと考えています。この異常に向かった歯列を正常な発育パターンに適切に軌道修正する口腔管理の知識と能力はGPとして必要不可欠と思われます。
 この分科会ではGPとしての咬合育成に多くの実績を残されている須貝先生と、矯正専門医として活躍されている先生とともに、若手臨床家の症例相談をとおして診査、診断を含めた咬合育成の基礎知識と、各成長のステージで行われる処置の妥当性などについて、皆さんと検討してみたいと考えています。
  • GPとしての取り組み ……… 須貝昭弘
    医療が対象とするものに疾病と障害がある。どのような疾病や障害に対しても治療学が先行しその後を予防学が追従していって医療が進歩してきた。医療のカバーする範囲は拡がりつつあり美容的な分野までがその範疇と考えられる向きもあるがそこには明確な線引きが必要であると考えている。歯科医療が対象にする歯列不正は障害として捉えられ、その治療法と予防法がなければならない。歯列不正を永久歯列完成まで放置してその時点で矯正治療を始めるべきという考え方も一理あるが、医療の立場から考えればその予防法を考えるべきではないだろうか。今回GPとして予防できる歯列不正と矯正治療を行わなければならない歯列不正の見きわめ方を提案してみたい。
  • 呼吸法と歯列不正 ……… 中村輝夫
    BSC(バイオプログレッシブスタディグループ)での大会や講演会などで、口腔周囲筋の微妙なバランスにより、歯牙および歯列が決定されると度々聞かされています(ファンクショナルマトリックス)。したがって、何らかの原因により正常な鼻呼吸が阻害されますと、口呼吸をすることになり、口腔周囲筋の調和が乱され、歯列が正常に発育することが困難になります。呼吸は生命維持に不可欠なことですから、その影響は甚大であると推測されます。
     今回は、鼻閉により口呼吸を強いられることにより、口輪筋の弛緩することが原因の上顎前突と、口蓋扁桃肥大により咽頭部の狭窄されるため、やむなく下顎を前方に押しやる力による下顎前突を、BSCで教えられたことを自分の臨床例をふまえてお伝えしたいと思います。
  • 口腔内悪習癖に対する取り組み ……… 河井 聡
    歯列不正の原因は歯牙の萌出位置や大きさ、顎骨とのバランスなどの問題の他に、口腔内の悪習癖が考えられます。歯列不正の大きな原因の一つでもある口腔内悪習癖の存在をきちんと捉えておくことはスムーズに咬合誘導を行ううえでは非常に重要です。
    現在歯列不正の予防、歯列改善、効率的な矯正、矯正後の後戻り防止を目標に、口腔内悪習癖改善のための訓練を行い、バランスよく口腔周囲を使用することを促すように取り組んでおります。
    今回は悪習癖の中でも開咬などの原因となる舌癖と、上下正中のずれなどの原因となる偏咀嚼に絞ってその診断と予防、実際の訓練などについて発表したいと思います。
  • 機能矯正について ……… 泉川卓也
    機能矯正とは、口腔周囲組織が機能する力を利用して、顎骨の成長をコントロールし、最終的に歯を動かしていこうというものであります。この過程で神経筋機構が発達・成熟し、歯列・顎骨と口腔周囲軟組織が調和していくこととなり、後戻りを防ぐ重要な要素となるように思えます。
    機能矯正を臨床に取り入れてわずか3年足らずで、途中経過の段階であり発表するのもおこがましいかぎりですが、その概念と症例を見ていただくことで色々な視点からご教授いただければと思っております。
  • 成長発育期における咬合誘導と歯科矯正とのボーダーライン ……… 原 省司
     小児歯科や一般歯科の分野では咬合誘導という用語は頻繁に用いられていますが、歯科矯正においてはほとんど使われません。それは、歯科矯正のなかには咬合誘導(狭義)も含んでいると考えられているからでしょう。
     しかし今回は、なかば強引にGPも行うものを咬合誘導(狭義)、矯正専門医が主に行うものを歯科矯正と定義したときの両者の線引きをしてみようと思います。治療の対象となる不正咬合を原因論的に分けると、二次的、後天的、環境的に生じた不正咬合の治療が咬合誘導、本質的、先天的、遺伝的に生じた不正咬合の治療が歯科矯正といえるでしょうか。
     このボーダーラインを見誤りますと、長期に渡って泥沼にはまることになりかねないわけです。

■ 事前抄録集4(ダウンロード用)


担当:熊谷・壬生

プラークコントロール、ルートプレーニングなどによる炎症のコントロールと、歯牙に加わるさまざまな力のコントロールにより、歯根膜、結合組織性付着、上皮性付着の回復を促す組織修復療法は、歯周治療の基本となっています。
 近年、再生療法といわれる手法とその経過も数多く報告されるようになりました。エムドゲインをはじめとする歯周組織再生療法も、ある程度成果を挙げてきているように思われます。しかし完全な再生は難しい上に、適応症や使用材料などはっきりしない点も多く、語る会ではあまり語られません。
 そこで、垂直性骨吸収に限局した歯周組織の回復事例、失敗例などを募集し、歯周治療としての比較、再生療法の必要性や診断基準、臨床評価などを、語る会ならではの視点でディスカッションできればと思います。

担当:鷹岡・松田

昨年の語る会分科会「パシャルデンチャーの設計に苦慮する症例」では参加者にアンケートを募り、企画者と参加者の意識差を明確にしてみようと考えました。アンケートの結果から 1.設計に苦慮する症例の枠組はほぼ一致している、 2.力の問題への意識が強い、3.インプラント支台の義歯に期待している、という傾向がうかがえました。術者としては欠損拡大の抑止効果としての期待が高いわけで、その意味で欠損歯列のリスク診断が重要になってくるのではないでしょうか。少数のインプラントをより効果的に応用してゆくには欠損歯列の抱えるリスクを掴むことが先決で、リスクの高い症例には設計段階からインプラントを応用してもオーバートリートメントにはならないのではないでしょうか? そこで本分科会では、どのような症例の時に術者が欠損改変を決断するのかを浮き彫りにし、その傾向を探ってみたいと考えています。
またインプラント支台義歯は論文報告も少なく、現状では埋入部位や 支台装置選択など不透明な部分も多く、症例の集積と経過年数の蓄積が急務であると考えています。


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