'11 新人発表事前抄録


外科的挺出により保存した症例
Ways of tooth conservation by surgical extrusion techniques
小川允知(歯然会・卒後7年)

【患者概要】
患者: 77歳 男性
初診:2010年11月
主訴:前歯が外れそう
歯式:(アイヒナー分類;A 3  残存歯数;23歯)

【要旨】
 患者さんは77歳男性。前歯部の動揺を主訴に来院されました。前歯部のブリッジは、縁下カリエスと歯牙破折を起こしており、動揺。左上2の欠損や、大臼歯部の骨隆起や咬合面のファセットにより、ブラキシズムなどのパラファンクションが疑われました。
前歯部ブリッジの脱離の原因を探る為に、全体的な精査をお勧めしたが、患者さんには受け入れられず。典型的なラポールの構築が難しいタイプの患者さんでした。保険での治療を希望されたのと、とにかく歯を残したいということで、提示させて頂いた治療方法は歯根端切除術に伴った外科的挺出でした。治療計画を立てる上で、まず本当に歯牙を保存することができるのかを調べました。外科的挺出を行うのは、上顎両側の中切歯。下地勲先生の歯牙保存の定義を参考に、健全歯質量が10mmあること、歯根端切除を2mm行っても健全歯質が8mm残ることを確認し、根管治療を行った後にオペに踏み切りました。オペ時には、歯質と歯根膜の可及的保存を考えました。右上1の歯牙破折の部位が口蓋側に位置しており、口蓋側にしっかりとしたフェルールを得る為にローテーションをしています。挺出した歯牙は、TEKに固定。歯槽骨の安定を見ながら2ヶ月後に支台築造をし、TEKにて咬合を与えつつ4ヶ月待ちました。この間、ブラッシング指導を行い、口腔内の環境も良くなっていきました。4ヶ月半経った頃、動揺や痛みがない事を確認し、最終補綴をしました。TEK時に犬歯誘導を与えると、TEK破損を起こしたことがあったので、最終補綴には左右ともにグループファンクションを与えました。

【結論】
 今後は、この補綴がパラファンクションの中で機能し続けれるように、様子を見ていこうと思います。この患者さんは歯牙が残せた事と、ブラッシング指導を通じて衛生士がコミュニケーションを頑張ったことで、治療終了時には今後の口腔内全体の診査を快諾していただだけました。今後は、全体的な咬み合わせも視野に診査をしていきたいと思います。
キーワード:【歯根膜】 


顎位の安定を目標とした重度歯周病症例
A case of chronic periodontitis that aims at stability of dental occlusion
鎌田征之(火曜会・卒後10年)

【患者概要】
患者: 56歳 男性
初診:2007年1月
主訴:右下が痛む(咬合痛)
歯式:Eichner B-3 残存歯数:16歯(再評価時)

【要旨】
 Eichner B-3の重度歯周炎患者に対して顎位の安定を目指した症例を発表します。
 患者は56歳の男性で咬合痛を主訴に来院しました。全顎的に重度歯周炎に罹患しており、咬合時の早期接触と顎位のズレを認めました。また患者は喫煙者で糖尿病に罹患しており歯科治療に対し強い恐怖心を持っていました。
 歯周病が進行していたため、歯周基本治療を行いながら義歯の安定を図るために保存しなければならない歯の選択に苦慮しました。再評価時にゴシックアーチを用いて下顎位の評価を行ったところ、アペックスとタッピングポイントに大きなズレを認め下顎位は不安定であると判断しました。そこで水平傾斜した下顎智歯を支台装置として取り込むことでなんとか遊離端欠損を回避しました。
 強い修飾因子のあった歯周病の改善、義歯の安定とともにゴシックアーチの描記像が変化し最終補綴へ移行しました。短い経過ですが現在、咬合は安定しておりメインテナンスを継続中です。

【結論】
・下顎智歯を活用したことで遊離端欠損を回避でき下顎位の安定を図ることができました。
・ゴシックアーチ描記を治療の各ステップで行ったことで下顎位の変化を確認することができました。
・条件の悪い歯周病でしたが患者の努力のかいもあり歯周組織の安定を得ることができました。
キーワード:【顎位】【ゴシックアーチ】【下顎智歯の活用】



義歯の安定のために咬合様式を模索した一症例
Case sought to articulating styles for stability of denture base
石田博也(包括歯科医療研究会・卒後13年)

【患者概要】
患者: 52歳 男性
初診:2009年9月
主訴:義歯の不具合
歯式:アイヒナー分類 B2

【要旨】
 患者は装着されている上顎の局部床義歯が合わない、動く、うまく噛めないといった不具合を主訴に来院されました。また合わせて全顎的な治療も希望されました。
 上顎は歯周疾患による欠損の進行が認められ、上顎に装着されている義歯はクラスプが破損し、粘膜面も不適合で、2本の残存歯は義歯の支台歯として負担過重となっており、梃出、動揺が認められました。下顎は天然歯列で歯槽骨の水平的骨吸収、2次カリエスや不良補綴物が認められることから、全顎的な治療が必要であると判断しました。処置方針として、歯周基本治療後、上顎は磁性アタッチメント、インプラントを応用したオーバーデンチャー、下顎はできるだけ固定性補綴物で対応することとしました。
 オーバーデンチャーは基本的に総義歯に準じて作製しますが、対合が義歯か天然歯列かによって与える咬合様式が多少異なってきます。また義歯には必ずある程度の動きがありますので、残存歯の負担軽減、顎堤の保護、良好な装着感の維持の為にできる限り義歯の動態を抑えたいと考え、上顎にトリートメントデンチャー、下顎にテンポラリークラウンを作製し、義歯の安定が得られるまで形態等を煮詰め、最終補綴物に反映しました。

【結論】
 特にバランシングコンタクト、咬合弯曲を意図的に与えたことで下顎運動時の義歯の安定を得られることができました。また磁性アタッチメントの維持力により義歯床を無口蓋にすることが可能になり良好な装着感が得られました。
 まだ経過が短いので、注意深く観察していきたいと思います。
キーワード:【義歯の動態】【トリートメントデンチャ―】【バランシングコンタクト】 


アンテリアガイダンスを模索した一症例
A case report that gropes for anterior guidance
村田幸一朗(しんせん組・卒後14年)

【患者概要】
患者: 47歳 女性
初診:2006年4月
主訴:前歯が欠けた 右上に違和感がある
歯式:(右上4・右上32埋伏歯 抜歯)Eichner A 残存歯数28歯

【要旨】
 犬歯を含む3歯連続欠損に固定式を強く希望された患者とのやりとりからはじまった症例です. 埋伏歯(犬歯)を牽引しBrにできないかと試みるもうまくいかず逆に大きな骨欠損が生じてしまった。 欠損部回復と支台歯への負担を考慮しコーヌス義歯設計としたが前歯部が支台歯となる為ガイドによる過負担にならないようプロビジョナルでガイドの模索を行いファイナルを作製していった。 また違和感の少ない床形態となるよう咬座印象を行いそれをリマウントすることで再度ガイドチェックをおこなった. 特に目新しいことはしていませんが基本ステップを踏んでいくことで装着直後より違和感の少ない義歯となることができた。経過が短く検証も乏しいですが、諸先生方よりご意見ご批判等いただければ幸いです.

【結論】
 患者は最初から可撤式への抵抗があり受け入れてもらうことに苦労したが最終形態に近いプロビジョナルを使用することで理解して頂くことができた.コーヌス義歯で対応することで欠損部の清掃性、審美性の問題も容易に改善できたが支台歯数(D432@@2B)が少ないため今後も過負担がないよう慎重に経過をみていかなければいけない。
キーワード:【犬歯埋伏歯】【アンテリアガイダンス】


シンプルな設計を目指したコーヌスクローネ
A Case of konuskrone trying for Simple design
木村博幸(救歯会・卒後18年)

【患者概要】
患者: 74歳 女性
初診:2004年11月
主訴:義歯の作成希望
歯式:初診時歯式:
   術後歯式: 
Eichner B2 残存歯数16歯

【要旨】
 すべての残存歯に補綴処置がなされており、二次カリエスに罹患していました。前回の補綴処置から10年以上経過しているとのことでした。当初は、カリエスリスクは高く、咬合力は弱いと判断しました。左上6には、歯牙の挺出と骨吸収が認めらますが全体的にペリオの傾向は高くありません。初診時、下顎のみ、義歯を使用していました。 患者さんは、治療に協力的で、プラークコントロールも熱心です。リコールにも定期的にかよわれ、治療方針はほぼ任せていただけました。 補綴は、カリエスリスクへの対応が重要で、メンテナンス重視の設計方針としました。 歯列内配置が良く、受圧・加圧の条件も良好。咬合力は弱く、今後の加齢により、さらに咬合力は低下すると予想し、力による問題は起こりにくいと考えました。 また、テンポラリーでの検証で、左右とも6までの配列でも患者さんは不自由を訴えませんでした。 これらから、可撤性の義歯で、リジットでワンユニットとなるようにコーヌスクローネを支台とし、6番までメタルで延長した短縮歯列の床のない設計としました。しかし、残存歯数が13歯であることから、今後の歯牙の喪失に対しパラタルプレート、リンガルバーを追加できるように考慮しました。

【結論】
 良く噛め装着感がよいと喜んでいただけましたが、咬合力が増加していると感じます。正中に鑞着部を設定したりと、強度への配慮が足りなかったと反省しています。早めにパラタルプレートを足すべきか悩んでいます。
今後は2次カリエスと義歯の破折に注意すれば、トラブルは少ないと思っています。しかし、予想以上に歯肉退宿がみられるので歯周組織や根面カリエスに注意が必要だと考えています。
キーワード:【咬合力】【鑞着】【リスクの予測】 


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