2015 新人発表事前抄録


信頼関係構築に努めた症例
小野仁資(卒後9年 しんせん組)
【患者概要】
初診:2012年2月
患者: 主婦 女性 
主訴:左下5が噛むと痛い、 右上5が舌でひっかかる
歯式:
【要旨】
 患者は上記の主訴で来院された70歳の女性。患者の悩みである多汗症に配慮しながら治療を進めたことで良好な信頼関係を築くことができた。
左下5には歯根破折を疑わせる所見があったが、不確定だったため自然挺出を利用して歯牙の保存を試みた。
右上5には骨縁下カリエスが認められたため、矯正的挺出を行い歯牙の保存に努めた。これまで、上顎の補綴物は短い期間で壊れてしまい、その度に歯を失い、欠損の拡大を繰り返してきたと残念そうに話された。今回はそうならないよう、術後対応しやすい設計をTEKで模索し、考えた。
上顎の欠損部にはコーヌスBrで対応した。3年半という短い期間ではあるが問題は生じていない。しかし、残存歯の条件から不安を抱えている。ご主人の介護も重なり油断できない状況は続くが、定期検診に欠かさず通って下さる患者の気持ちに応えるためにも、今回装着した補綴物が患者にとって最終補綴物になるようサポートしていきたいと考えている。
【考察】
・患者の悩みに配慮しながら処置を行う大切さを改めて学んだ
・上顎の補綴設計に二次固定を選択したことでメインテナンス等術後対応しやすくなり、この補綴設計で良かったと考えている
・咬合関係が難しく定期的に調整しているが、今後も注意深く観察し対応していく
キーワード:【矯正的挺出】【補綴設計】【二次固定】【咬合関係】



可撤性で対応した上顎片側犬歯欠損症例
三上 論 (卒後12年 無門塾)
【患者概要】
初診:2014年6月 患者: 美容師  女性
主訴:右上が腫れている
歯式:
【要旨】
 患者は65歳の女性、主訴は右上3,4の歯根破折が要因と考えられた。犬歯は保存できず、上顎右側の弱体化が特徴的な欠損歯列となった。今後の欠損進行抑制を目標とした咬合再建が迫られる局面であったが、一次固定が困難であること。歯根破折の既往があること。インプラント治療は避けたいという患者の 希望があることという条件を考慮し、コーヌステレスコープによる二次固定を補綴設計として選択した。
 可撤性の利点である義歯床による粘膜支持を最大限に利用したいと考えたが、長年一次固定と過ごしてきた患者への心的配慮として、プロビジョナルにて段階的な床面積の拡大を行なった。
 上顎補綴後15ヶ月と経過が短いため現在のところ大過なく機能しているが、今後予想される歯根破折のトラブルには、可撤性のもう一つの利点である術後対応の容易さを活かしていければと考えている。

【まとめ】
  1. 弱体化した上顎右側を抱える欠損歯列に対して、残存歯と顎堤を最大限に活用できるコーヌステレスコープを選択しました
  2. 一次固定から二次固定への移行において、床形態を模索できるプロビジョナルの有用性を再認識しました
  3. 今後は歯根破折などのトラブルが予想され、可撤性を活かした術後対応が必要となると考えています
キーワード:【コーヌステレスコープ】【義歯床】【プロビジョナル】



犬歯の非切削にこだわった一症例
三箇 満(NDの会 2004年卒)
【要旨】
患者:女性 61歳 主婦
初診日:2014年4月1日
主訴:前歯がグラグラする
歯式:
【要旨】
 患者は上顎前歯の動揺を主訴に来院した。過去に下顎大臼歯を喪失し、度重なる二次性咬合性外傷により、前歯への負担が増した結果と思われた。年齢別残存歯数はほぼ平均であり、歯周環境を整え、臼歯のサポートを作ることで欠損の進行を遅らせることができるのではないかと考えた。左右犬歯での歯周病罹患度の差はあるが、この犬歯同士の接触を咬合の基準として治療を開始することとした。保存不可能と判断した上顎前歯の抜歯後、即時義歯を装着した。後に仮義歯の改変を行い、咬合の安定を図りつつ歯周治療を進めた。この時も犬歯の咬合接触に細心の注意を払い、支台歯歯頚部を解放しながら仮義歯の改変を行った。トライセクションや自然挺出、二次固定の効果もあり、歯周環境が改善し動揺も落ち着いた。犬歯の咬合接触を保ちながらプロビジョナルデンチャーへ移行し、義歯の破損がないこと、支台歯の動揺がないこと、前歯配列に問題がないことを確認した。その後、プロビジョナルの形態を踏襲しコーヌスクローネを完成した。
 術後1年8ヶ月と経過は短いが、現在のところ前歯への突き上げはなく、支台歯も安定している。
【まとめ】
  1. 犬歯を非切削にしたことにより、既存の咬合高径を維持したまま補綴を終了することができた。特に左上犬歯の支持骨は少ないため、クラスプやレストなどによる犬歯への更なる負担を回避できた。
  2. 現段階では弱い咬合力に助けられ安定している。今後、上顎前歯への突き上げによるフレミタスの出現に細心の注意を払い経過観察をしたいと考えている。
  3. 左下5番の歯根膜腔は以前より拡大してきており、コーピング等で歯冠-歯根比を改善すべきだったかもしれない。
キーワード:【自然挺出】【犬歯】【プロビジョナルデンチャー】【二次固定】



左右すれ違い傾向咬合の歯列改変を歯の移植にて行った症例
朝倉 健太郎(救歯会 1993年卒)
【要旨】
患者:女性 66歳 パート勤務
初診日:2014年3月
主訴:右上・左下修復物ダツリ、奥歯で噛めない。
歯式:
【要旨】
 右上と左下に装着していたBrのダツリが主訴で、咀嚼がしっかりできないと認知症になるという話を聞いて心配だということでした。インプラントに対しては不安感を持っているようでした。
 初診時の口腔内は両側の大臼歯支持がない状態で受圧加圧バランスが悪く、予後不良歯も存在しました。咬合支持が不安定になってきており、左右的すれ違い咬合へ向かう危険がありそうでした。
 治療方針としては、加圧因子となっている第二大臼歯を移植して受圧加圧バランスを改善させ大臼歯での咬合支持を得ることを目標にしました。
実際の治療においては術前CT検査によりドナー歯と移植部位を決めました。稚拙な移植手技により上顎では浅い埋入になってしまいましたが患者さんの回復力に助けられました。歯周病のリスクは低いものの支台歯の歯周組織を整えることに苦労しました。下顎では移植歯の歯軸に問題が生じてMTMを行いました。補綴治療では下顎は固定性Brに、上顎では二次固定効果や術後対応を考えてコーヌスクローネにしました。咬合採得ではゴシックアーチのアペックスを選択しましたがタッピングは安定しているとは言えない状態でした。2年8か月の治療期間を経て現在は補綴終了後約6か月と短い術後経過です。咬合接触点を観察するといつも同じとはならず安定は得られていない状態で前噛み傾向が現れているようです。テンポラリー義歯での顎位の経過観察がもっと必要だったと反省しております。
【まとめ】
  1. 歯の移植により欠損歯列の改変を行い、左右的すれ違い傾向の受圧加圧バランスを変更し、患者さんからは良く噛めるとの評価を頂きました。
  2. テンポラリー義歯での顎位の経過観察が足りず、補綴を急いでしまった事が反省です。
  3. 移植は成功とは言えず、上顎では床の拡大などが今後必要になることも予想しています。
キーワード:【受圧加圧バランス】【歯の移植】【コーヌスクローネ義歯】



歯髄治癒を認めたサイナスリフトによる根未完成智歯移植の1例
羽田 裕二(卒後32年 おたまの会)
【要旨】
 歯の移植において歯周組織の治癒が成功の基準となるが、根未完成歯は、これに歯髄治癒が加わる。歯髄壊死に至る場合もあり、繊細な手術が要求されます。
 今回の症例は23歳女性で、左側上顎第一大臼歯欠損部の治療で来院。CTにて上顎洞近接、骨量は少なく、左側上顎智歯は歯根未完成。そこで歯髄治癒させるべく対策しながらサイナスリフトによる智歯移植を行った。術後2週間でEPT+、5年経過後の現在も、歯髄腔閉鎖の歯髄治癒を認めています。
キーワード:【歯の移植】【サイナスリフト】【根未完成】【歯髄治癒】


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