'08 臨床歯科を語る会概要

全体会
尾藤 誠司先生特別講演
国立病院機構東京医療センター 総合内科 

 科学的なエビデンスに基づく医療(EBM)というスローガンは、ひとつの大きな誤解を生みました。それは、「科学的な根拠があれば、よりはっきりすっきりできる」という医療者の誤解です。EBMを現場で実践する中で、多くの医療者はその壁にぶち当たります。いくつものトップジャーナルに掲載された論文が提示する根拠は、医療の強さではなく、むしろ医療の限界と脆弱さであることを、EBMは強烈に提示します。そして、そのような根拠を背に、医療者は患者の利益に寄り添った最良の判断を毎日迫られます。本講演では、医療者が共通して持っている自然科学的な思考プロセスと、物事への価値付けなどに対し、自己分析的な解釈を行うとともに、患者の事情も含めた医療判断に影響するさまざまな情報に対し、どう向き合うべきかについて考察を行いたいと思います。
(担当:松田)
村上 伸也先生特別講演

大阪大学 大学院歯学研究科
口腔分子免疫制御学講座
歯周病分子病態学・歯周病診断制御学

 我々の研究室では、強力な血管新生作用と間葉系細胞の増殖誘導能を有する塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor: bFGF; FGF-2)と呼ばれるサイトカイン(細胞が分泌し、周囲の細胞へシグナルを伝達するタンパク質)を歯周外科時に歯槽骨欠損部に局所投与することにより、歯周病により失われた歯周組織の再生を人為的に誘導・促進する、次世代の歯周組織再生療法の開発に取り組んできた。今回の講演では、これまでの前臨床試験、および第II相臨床治験の結果をお話しさせて頂き、歯周組織再生療法に関する今後の展望について先生方と議論させて頂きたいと考えている。

略歴:
昭和59年 大阪大学歯学部 卒業 
昭和59年 大阪大学大学院 歯学研究科 入学
昭和63年 大阪大学大学院 歯学研究科 修了(歯学博士)
昭和63年 米国国立衛生研究所(NIH)研究員
平成2年  大阪大学・助手 歯学部
平成4年  大阪大学・講師 歯学部附属病院<>br 平成12年 大阪大学・助教授 大学院歯学研究科
平成14年 大阪大学・教授 大学院歯学研究科
(口腔分子免疫制御学講座 歯周病分子病態学・歯周病診断制御学分野 )
現在に至る
資格等:
日本歯周病学会:専門医・指導医
日本歯科保存学会:専門医・指導医

学会活動:
日本歯周病学会:常任理事
日本歯科保存学会:理事
日本炎症・再生医学会:評議員
IADR日本部会(JADR):会計理事
(担当:熊谷・壬生・須貝)


ランチョン・ミーティング
ヒマラヤの東・チベットの世界

寺田 周明 先生

北京オリンピックを間近かにひかえて、にわかにチベット問題がクローズアップされてきた。かつて、毛沢東はダライ・ラマ14世にむかい、`宗教は毒だ´と言い放った。しかし、チベットを理解するには生活の隅々まで宗教、信仰が根づいている民族の伝統や文化の現実は無視できない。  ヒマラヤ山脈の東、チベットの世界に足を踏み入れてからもう10数年になる。チベット仏教徒にとって西と東・双璧の聖山とされるのはカイラス山(6656m)と梅里雪山(6740m)。この二つの聖山を結ぶように走るのが玉龍雪山(5596m)の山麓を起点とする茶馬古道、全長数千キロに及ぶもうひとつのシルクロードである。チベット高原は、大いなる自然に畏敬を抱き、宇宙への帰属を信じる多神教の世界でもある。 このところ、押し寄せて迫るグローバル化の荒波は、山を見れば頂上を征服しなければ気がすまない一神教、アングロサクソンの末裔の暴走にすぎない。 文明の装置としての`宗教´は避けては通れない時代に入ったと思っている。


分科会

担当:日高・依田・熊谷

審美的な観点からメタルフリーによる修復への期待は高く、古くはポーセレンジャケットクラウンに始まりました。エンプレスに代表されるキャスタブルセラミックスは20年以上も前から研究され、強度的、審美的に改良を加えられ、臨床応用されていきました。  さらに最近になって実用化されたジルコニア系セラミックスは金属と同等かそれ以上の強度が確保され、臼歯部の適応はもちろん、多数歯のブリッジも可能という触れ込みです。結果としてさまざまな種類の材料やシステムが使用できるようになった反面、材料学的特徴やシステムによる相違点、問題点などが整理されないまま臨床応用が広がっており、メタルフリーという潮流と真剣に向き合わなければいけないのではないかと感じています。  そこで本分科会では、オールセラミックスの経過におけるトラブルや臨床上の留意点など、さまざまな視点からの症例を提示いただき、現状の把握と今後の可能性について討論してみたいと考えております。

担当:野村・西原・壬生

片側の長い遊離端欠損症例に遭遇することは決して稀ではなく、その対応に悩むことはよくあります。その理由を考えてみると、まず受圧・加圧のバランスの悪さよる力学的な問題が挙げられます。また術者の思いと患者の要望に大きなギャップが生じる可能性が高く、特に反対側の咬合支持がしっかりしているような症例では患者の義歯装着等による違和感はより顕著に現れます。
   語る会では片側遊離端欠損については過去に幾度となく議論が交わされてきました。しかしインプラントが欠損補綴のオプションとして確立してからはまだ行われていないように記憶しております。過去の語る会での議論の内容との比較も興味深いところです。今一度、3歯以上の片側遊離端欠損症例を対象に・欠損歯列の診断と病態の理解、・個人差にどう対応するか、・それらを補綴設計にどう反映させるか、といった点を中心に討論し、視野を広げることを期待しています。

担当:山口・林・法花堂

近年、審美歯科が話題の中心になることが多く、前歯部補綴についてのディスカッションが目につきます。しかし、実際の臨床では臼歯部を補綴する際、咬合面形態や対合歯との咬合接触、ガイドの与え方などで悩むことが多くあるように思います。前歯部に関しては、問題の多くが実際に目で見えるのに対し、臼歯部の咬合については問題が動きの中にあり、見える部分が見えない部分にどのように影響を与えているのかがわかりにくい(見えない部分が多い)からだと思います(チューイングサイクル、噛み癖、ガイド、顎関節など)。
そこでこの分科会では、これらのテーマに豊富な経験をおもちである菅野先生を道場主に迎え、一本の歯牙の補綴物の形態をどのように捉えるのか、道場形式でディスカッションできればと思います。


テーブルクリニック
CTの使い方臨床編   藤関 雅嗣先生


   昨年の臨床歯科でモリタ製コーンビームCT 3DXの開発者である新井嘉則先生より3DX CTの概念、撮影後の読像方法など基本的項目についてご講演いただきました。
今回、エンド、ぺリオ、埋伏歯、インプラントなどの臨床例を提示させていただき撮影後診断を正確に行うための注意点や3DXCTの利点、欠点など も考えてみたいと思っています。
(担当:西原)


   近年コーヌスクローネに関する話題を耳にしません。トラブルを経験してもうみなさんやらなくなったのでしょうか。私は依然としてコーヌスクローネをやっております。適応を見直したり、トラブルへの対処法を検討すれば、これほど良い補綴はないと思っています。少数歯残存症例にはコーヌスクローネが最適です。インプラントが普及してきても、少数歯残存症例には対応しきれません。コーヌスクローネは高齢者には 最適です。 「内冠重視のコーヌスクローネ」という基本的考え方で、支台歯形成のポイント、全周6度の内冠、レジンコーピングを使った印象採得、間接法の考え方、などの黒田式コーヌスクローネの実物をごらんいただきながら解説したいと考えています。
(担当:壬生)


   咬合育成をすすめながら健全な永久歯列に導いていくには成長の各ステージでのきめ細かい咬合のチェックが必要です。異常を発見したときには素早い対応が必要であり何らかの装置を使用して対応することが多くあります。ほとんどの症例で子供たちに自覚がなく特に習癖に起因する異常では子供が無意識のうちに習癖を止めるような装置を製作する必要があります。それぞれの異常に対応する多くの装置が紹介されていますが、実際にはその成果を高めるためには細かな調整も必要でその調整法については講演や論文では表現しにくいためにあまり紹介されていません。今回のテーブルクリニックでは装置の紹介だけでなくその調整法をより具体的に紹介したいと思います。
(担当:鷹岡)


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