'08 新人発表事前抄録



咬合崩壊に対応した1症例
A Case Of An Approach To Occlusal Collapse
近藤 久紀(こんどう ひさのり)(富山剱の会 卒業13年目)

【要旨】
患者: 50歳 男性
初診:2005年12月17日
歯式:
主訴:歯茎が腫れている 歯がぐらぐらする
 45年ぶりに歯科医院に来院された患者さんである。口腔内は完全に崩壊しており、残根、重度歯周炎に罹患した歯牙が多くみられた。45年ぶりの来院で補綴された歯が1本もないこともあり、欠損補綴に関しては、できるだけ天然歯のまま保存し、最小限の介入とした。歯周疾患などにより移動してしまっている左上下3番にMTMを行い、咬合接触を与え、弱いものではあるがガイドに参加させた。治療上残根形態になってしまう歯を磁性アタッチメントの支台歯として利用し、(PDの維持として)残存天然歯の負担を軽減させた。全体的に最小限の侵襲で、より効果的な処置が行えたと考えている。

【結論】
・MTMを有効に行うことで補綴設計はシンプルにできる。
・清掃のよいKr.に義歯の維持として磁性アタッチメントを用いることは有効なことである
キーワード:【MTM】【磁性アタッチメント】【MI】 


予後不安な歯の保存に努めた重度歯周炎症例
A Case report of conservative treatment for sever chronic periodontitis with questionable teeth
斎田 寛之(火曜会、卒後7年目)

【要旨】
 重度の骨欠損を抱える予後不安な歯の保存の可否を考えるとき、一口腔単位では患者の回復力、協力度など、一歯単位では骨欠損形態や分岐部病変の状態、また補綴的な重要度などを考慮して判断を行うことが多い。
 本症例は初診時47 歳の女性で、全顎的に重度の歯周疾患に罹患しており、根尖付近にまで及ぶ垂直性骨欠損を抱えた予後不安な歯が多数認められた。治療計画を立案する上で、それらの歯牙が補綴設計を左右すると考えられたため、初診時に保存か抜歯かの判断を行わず、炎症と力のコントロールを行いながら支台歯としての評価を行うこととした。特に重度の垂直性骨欠損を抱える歯牙に対しては、骨欠損の状態から移動の方向を予測し自然移動を行うのと同時に力の解放を行ない保存の可否を行おうと考えた。
初期治療を通じて、患者自身の健康観の高さについて認識することができ、咬合力の弱さもあってか歯周組織は顕著な改善を認め、患者の回復力の高さを伺い知ることができた。そのため、初診時に予後不安と思われた 歯については、歯周組織のさらなる改善を行うために歯周外科処置を行なった。
また補綴処置では、分岐部V度であった6の補綴設計に悩んだ。動揺度と連結、予後不安な歯との連結などについて考察した。
現在、補綴処置後約2 年経過しているが、良好に経過している。
今回は特に罹患度の高かった右側に絞って発表をしたいと思います。
諸先生方のご指導、ご教示を賜りたいと思います。宜しくお願い致します。

【まとめ】
  1. 初診時に重度の骨欠損を抱えた予後不安な歯牙に対して、動揺度の改善に加えて患者の回復力の高さや健康感の高さを考慮して保存に努めた。
  2. 動揺歯の連結固定は、動揺度と術後対応のしやすさを考慮して行った。
    予後不安な歯の保存に際しては、術後対応を考慮した補綴設計をすることが重要ではないかと考えた。
  3. 患者の回復力の高さ、プラークコントロールの良さ、咬合力の弱さに助けられた症例であった。
キーワード:【重度歯周炎】【回復力】【連結固定】【動揺度】 

下部鼓形歯間空隙量および形態を模索した一症例
A case adjusted the form of embrassure
田畑 繁 (NDの会 卒後13年目)

【症例】
患者:56歳 女性
初診:2004年3月19日
主訴:左上がはれた 全体がぐらついて咬めない

歯式:
【要旨】
初診時、上顎にはワイヤークラスプデンチャーが装着されていましたが、維持、支持、把持ともに十分とは言えず、患者さんは咀嚼状態に不満をお持ちでした。
 残存歯は全顎的に動揺があり、特に上下顎臼歯部は保存が難しく、遊離端欠損一歩手前の状態でした。歯周基本治療を終了後、患者さんの希望もあり義歯が不安定な上顎を先行してコーヌスデンチャーにて補綴しました。  下顎は中等度〜重度の歯周病のため、安定した経過を期待するには、特に下部鼓形歯間部のセルフクリーニングが重要と考えました。プロビジョナルにて下部鼓形歯間空隙量を模索し、日々のセルフクリーニングで、より患者さんに負担の少ない形態を目標としました。具体的には清掃器具は歯ブラシ1本、歯間ブラシ一本で清掃できる状態を目指しました。使用する歯間ブラシのサイズを決め、清掃状態はプロビジョナルを染め出すことで評価し、即重レジンを加減し調整を繰り返しました。このときレジン表面の研磨の状態が歯周組織に与える影響を再認識しました。
 これらの作業でプロビジョナルに付与した下部鼓形歯間空隙量および形態を、技工サイドと協力しながら出来るだけ忠実に最終補綴物に写し取るよう努力しました。
 最終補綴物の装着後は、清掃器具の簡素化もあり患者さんのモチベーションを維持でき、現在のところ比較的良好な経過となっています。
 処置内容に関して問題点、反省点が多く経過も短い症例ですが、今回の発表を通じて諸先生に御指導、御批判を頂きたいと考えています。

【まとめ】
  • セルフメンテナンスしやすい形態も患者毎に個別対応が必要と思われました。
  • プロビジョナル表面の研磨の状態が歯周組織に与える影響を再認識しました。
  • 患者さんの清掃器具の種類を簡素化することが、セルフクリーニングの長期継続につながり良好な歯周状態を維持するための一要因と感じました。
キーワード:【下部鼓形歯間空隙】【セルフメンテナンス】【清掃器具の種類の簡素化】


自家歯牙移植により欠損形態を改変した一症例
A case who modified loss form by transplantationt
村井裕介(しんせん組、卒後9年目)

【要旨】
患者:女性 介護のパート勤務
初診:2005年6月
歯式:
主訴:右上8番を抜いてほしい
特記事項:喫煙以外なし

 主訴部位への処置、歯周基本治療を進めていたところ約半年後に右下のBrが脱離。
 歯牙移植、MTM、インプラント、可撤Brなどの案を出し相談した結果移植を選択することにいたしました。 左上8番を右下7番部へ移植、時期をみてテンポラリーを装着し経過観察をしましたが移植歯は円錐状の歯根をしており、水平的に動揺が残っていたためテンポラリーを8番と連結した。その後動揺は落ち着いていったため補綴物にも8番の協力が必要であると判断しました。
 3歯支台のBrを1次固定することに抵抗があったため、8番には深めのレスト座を付与した単冠を装着し7番の遠心からレストを乗せる形でBrを作成しました。

【結論】
 自家歯牙移植により2歯欠損を1歯欠損にしたことは有効であったと考えます。
 補綴物の形態にはもう少し配慮が必要だったのではないかと考えます。
キーワード:【自家歯牙移植】【補綴設計】 



残存歯保護を考えた遊離端欠損の補綴設計
Prosthetic design of free-end defect to protect residual tooth
長濱 裕介(包括歯科医療研究会、卒後5年目)

【要旨】
患者: 54歳 男性 会社社長
初診:2005年10月
歯式:
          ↓           ↓ 
   
主訴:歯を抜かれた理由を知りたい(セカンドオピニオン)
   出来ればもう歯を抜きたくない

 初診時、上顎にはテンポラリーブリッジが入っており治療途中でした。下顎臼歯部は補綴されておらず、上下とも残根状態の歯牙が存在しました。
まず残根状態の歯牙は抜歯をし、全体的に初期治療を行ないました。ペリオに対して必要のある部位には歯周外科処置、歯肉縁下カリエスに対してはクラウンレングスニングを行ない出来る限り残存歯の保護を試みました。 その後残存歯の長期保存を考えた上での補綴設計を検討しました。上顎は残存歯の歯周組織の状態、特に以前は臼歯部での咀嚼が出来なかったために動揺が強い前歯部を考慮し、事後対応が可能なオーバーデンチャーとしました。しかし患者さんの違和感が強く磁性アタッチメントを用いた無口蓋義歯としました。下顎にはパーシャルデンチャーの仮義歯を装着しましたが、支台歯の動揺がみられたことや、遊離端欠損による義歯の動態によりあまり咀嚼ができなかったため、インプラントを選択し補綴を行なっていきました。

【結論】
  • 下顎にはインプラントを用いることで、仮義歯装着時の支台歯の動揺を抑えることができました。
  • 臼歯部補綴により臼歯部での咀嚼が可能になり上顎前歯部の動揺も若干改善がみられました。
  • インプラントによって上顎に対して下顎の加圧要素を増やしてしまったため今後は慎重に経過観察を行なう必要があります。
キーワード:【残存歯保護】【遊離端欠損】【補綴設計】 


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