'09 臨床歯科を語る会概要

全体会
夏井 睦(なつい まこと)先生  石岡第一病院 傷の治療センター長

 医療行為とは何かを言うことを問い詰めると,「病気や怪我の苦痛を取り除くこと」「病気や怪我を早く治すこと」の二つに尽きるだろう。これについては恐らく,異論はないと思う。この意味で,「苦痛を与え」「回復を遅らせる」行為は反医療行為とみなしていいだろう。
しかし,現在の日本の医療現場(そして世界中の医療現場)では平然と日常的に,その反医療行為が行われているのだ。それが「傷を消毒してガーゼをあてる」行為だ。「傷を消毒し,ガーゼをあてる」ことで,傷の治癒を遅らせて患者さんに経済的損害を与え,無用の身体的苦痛を与えているのだ。すなわち,医療行為として行われているものの中で最も意味がなく非科学的で野蛮な行為といえる。
そこで「消毒とガーゼ」にかわる新しい創傷治療を紹介する。それがとりもなおさず,患者さんの利益になることだからだ。「消毒とガーゼ」のような患者さんに苦痛を与えるだけの馬鹿げた治療(・・・もしもそれが「治療」と呼べるのであれば・・・)が一日も早く撲滅され,患者さんがこの無用の苦痛から逃れる日が来ることを切に願っている。
(ホームページ「新しい創傷治療」http://www.wound-treatment.jp/より引用)

略歴
1957年,秋田県生まれ
1984年,東北大学医学部卒業。日本形成外科学会認定医
2003年4月,特定医療法人慈泉会 相澤病院 傷の治療センター長として赴任
2007年7月,石岡第一病院 傷の治療センター長に赴任
2008年,日本形成外科学会認定医(専門医)を勝手に放棄

著作
・【これからの創傷治療】(医学書院):2003年7月
・【創傷治療の常識非常識】(三輪書店):2003年12月
・【さらば消毒とガーゼ<うるおい治療>が傷を治す】(春秋社):2004年12月
・【創傷治療の常識非常識2 −熱傷と創感染−】(三輪書店):2006年1月
・『ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル すぐに役立つHints & Tips』
(三輪書店):2007年5月
・『キズ・ヤケドは消毒してはいけない「うるおい治療」のすすめ』
(主婦の友)2008年1月


全体会
インプラント解剖学 −粘膜下に潜む危険部位と治療後の抗加齢現象―
阿部 伸一先生  東京歯科大学 解剖学講座


 高齢社会になり、合併症を伴った患者、また著しい歯槽骨の吸収を呈する患者などの難症例が近年増加の一途をたどっている。この難症例に対する口腔内小手術に対しては、確かな解剖学的知識をもって細心の注意を払って望まねばならない。さらに、歯科インプラント術、GTR・GBR法など近年の歯科臨床技術には、目覚ましい進歩がみられる。これらの新しいテクニックを臨床の場で成功させるためには、これまで以上に詳細な解剖学的知識が必要となる。
 人体を構成する骨の中において、上・下顎の顎骨は歯を植立させ、歯を介して咬合力が直接的に骨内部にまで負荷されるという特殊な環境下にある。このため、顎骨の構造は、歯の植立状況の影響を大きく受ける。歯牙喪失後、顎骨のどこにどのような変化が現れるのかについて解説する。そして、その顎骨の変化によって、顎骨周囲、顎骨内部の神経、血管、筋、唾液腺組織など軟組織の位置関係が、口腔内からどのような部位に位置するように変化するのかについて解説を加える。成書などでのこれら軟組織の解剖学的な位置の解説は、ほとんどが有歯顎の時のもので、その違いが判断の誤りにつながり、偶発症を引き起こす可能性があるのである。チェックポイントの一例を挙げると、下顎舌側の顎舌骨筋線上を走行する舌神経の走行がある。患者の口腔内を覗き、下顎舌側粘膜を透かしたように舌神経の走行を指でたどれる歯科医がどれだけいるであろうか?全員がその走行を熟知していたら、偶発症(埋伏歯の抜歯の際など)によって舌の知覚、味覚神経麻痺、唾液の分泌障害などで苦しむ患者はいないはずであるが現実はそうではない。
 演者は、《臨床医が知らなければならないチェックポイント》をかねてより提唱している。本講演を聞いていただいた次の日から、患者の口腔内を覗き、粘膜の中に潜む危険部位をチェックできるようになっていただきたいと思っている。また講演の最後にインプラント治療後、患者の口腔緒組織に生じる抗加齢現象に関する世界的な研究のトピックスについて少しだけ紹介を加えたい。


分科会

担当:山口・楡井

歯科臨床において、歯牙の位置異常により治療や補綴処置、メンテナンスなどが困難になる症例を経験することがあると思います。治療結果に長期の永続性を得るためには、メンテナンスしやすい環境で補綴処置などを行うことが重要です。
歯周治療が終わり、歯牙の位置異常を補綴的に改善しようとプロビジョナルを調整しても、なかなか良い結果を得ることは出来ません。こんな時に歯牙のTooth PositionをMTMで、少しでも改善できれば、咬合の安定やメンテナンスに対して得られる効果は計り知れません。
 ただ、私たち若い歯科医師は経験の少なさから装置や手法、移動期間など不明な点がおく、なかなか自信を持って勧めることができないのが現状だと思います。そこで今回は補綴前処置としてのMTMに焦点を絞り、若手の歯科医師が少しでも自信を持ってMTMに取り組むことが出来ればと思いこの分科会を企画しました。

担当:西原・日高

診断は唯一であるが処置方針は様々である。とくに欠損歯列においてはEichner分類、宮地の咬合三角、受圧・加圧、残存歯数、咬合支持指数、歯列内配置などその指標となる事項は多いが、それ以外に患者の年齢や食生活、咬合力および社会的背景、さらには各歯牙の歯周組織の状態や残存歯質量などの個別性や、術者の技量がその症例の処置方針と予後を左右することも少なくない。
我々歯科医は何を基準にその処置方針を決定しているのだろうか?また、歯牙移植やインプラントは本当に有意義なオプションの一つとなり得るのであろうか?本分科会では、参考症例を用い、そのような疑問を皆さんと討論していきたい。さらには、自分が考えた処置方針と予後が実際の経過と比較・検証することにより、そこから何か見えてくるものや気付きがあれば幸いである。

担当:林・折笠

補綴処置終了後、適正に管理された口腔であればウ蝕や歯周病の予防は可能になりつつあります。しかし力のコントロールはきわめて難しく、パーシャルデンチャーをはじめ、欠損補綴のメインテナンス時に、力によると思われるトラブルの頻度が高いように感じられます。そのような中で適正に施したインプラントは、力に対して相当耐えられているようにも感じます。
今回、この分科会では患者側に力の問題(欠損形態、咬合力、パラファンクションなど)があるケースでかつインプラントを行っている症例を検討し、予測以上に経過良好のケース、インプラントもしくはその周囲組織にダメージがあるような症例から、「力」とインプラントの関係を探りたいと思います。極端な「力」の因子は欠損形態なのか、パラファンクションなのか、咬合力の大きさなのか、また力のツケがどこに現れるのか(上部構造の破損、骨吸収、対合歯、歯根破折、顎関節など)わからないなりに傾向をつかみたいと考えます。


テーブルクリニック
コーヌスクローネへの道・実践編
黒田 昌彦先生、歯科技工士 玉置 博規先生


   前年度 黒田式コーヌスクローネの誘いにおいて、黒田先生から内冠重視のコーヌスクローネということで支台歯形成のポイントから関接法の考え方まで解説していただきました。しかしながら 実際コーヌスクローネを作製してみると、様々なステップにおいて少なからずトラブルを経験すると思います。コーヌスクローネを成功に導くためには どのようなことに気をつけなければいけないでしょうか?そのためには 一歯単位の形成 適合 セメント合着等の間接法 さらにコーヌスクローネ作製過程における注意点を正しく理解する必要があります。
 本テーブルクリニックでは、若手の症例を通じて黒田先生 技工士の玉置氏とコーヌスクローネを成功に導くステップをディスカッションしたいと思います。
(担当:日高)
再生療法における炭酸ガスレーザーの有効性と概念
下川 公一先生


   再生医療とは、失われた組織を再生させその機能を回復させる治療であり、歯科治療においては骨欠損を有する天然歯の保存のためには最も期待されている分野である。演者も様々な方法で、それに取り組んで来たが、8年前よりCO2レーザーを利用する事によって、飛躍的に適応症が拡大し、その成功率も高まって来ている。上皮を貫通して存在する歯牙の歯周組織が一度失われ始めると、上皮の根尖側移動が直ぐに始まるために、そこにそれぞれの組織を元通りに再生させる事は極めて困難な事になる。
 組織の再生、修復に血液細胞は必要不可欠なものであるが、それを有効に利用するためには血餅が器質化するための場を確保して細胞の分化増殖に必要な足場としての生体組織材料も必要である。そして再生させる場を構築するために必要な角化歯肉粘膜骨膜弁をまず作っておかなくてはならない。開放創の二次性創傷治癒しか期待できない不利な口腔環境の中で、歯槽骨や歯根膜を再生に導くためには外胚葉性間葉組織を理解した上での血液細胞と歯肉粘膜骨膜弁への対応が必要である。
 CO2レーザーは赤外線波長で、水分に吸収されるため生体組織には極めて有効的にその機能を発揮するが、ただ漠然と照射すれば全てに良い訳ではない。高反応レベル照射と低反応レベル照射が細胞に与える影響を十分に理解した上で、それぞれの時と場所に応じて使い分ける事が必要となる。
 今回は様々な歯周外科手術において、演者が行っている組織再生療法でのレーザー治療の概念とその術式を歯肉歯槽粘膜、そしてGTRとGBRに分けて解説してみたい。 
(担当:松井)