'08 新人発表事前抄録



予後不安な下顎の3番の保存にこだわった理由
A case report of the conservative trial of lower canine
早田 孝(しんせん組 卒業15年目)

【患者概要】
患者: 73歳 女性 会計士
初診:2006年10月
主訴:義歯が動いて噛めない
咬合支持数:2 Eichner B4
歯式:
【要旨】  支台歯である左下3番の前装冠の脱離によって義歯が動き出して噛めないと来院されました。下顎の他の残存歯は全て動揺度3義歯を安定させる力は残っていません。治療はまず左下3番にポストコアをセットし、治療用義歯の製作にとりかかりました。その際唯一の咬合支持歯であるため保存した右下3番が、義歯の安定になくてはならない存在になっていることに気が付きました。下顎の最終治療用義歯の形態は、両側の3番支台のオ−バ−レイ、上顎は前歯部支台のコ−ヌス形態とし、一定の使用期間をえて最終補綴に移行していきました。

【結論】
・残存歯を犬歯の位置に残せたことが、顎位の安定につながりました。
・犬歯を3本ではなく4本残せるかが、最終補綴の予後を大きく左右すると考えます。

キーワード:【4本の犬歯】【残存歯の位置】 


一本の支台歯の保存に試行錯誤した症例
Case presentation of the trial and error procedure for keeping the last remaining tooth
野地 一成(救歯会)

【要旨】
 混合負担様式の義歯においては残存歯が少なくなるほど、義歯機能時の挙動が鉤歯に与える影響は大きく、鉤歯の負担もまた大きいと考えます.下顎の残存歯が一本しかない場合は大学ではレスト無しの二腕鉤義歯とならいましたが、残存歯の挺出と顎堤の吸収は避けられません。インプラントによる義歯補綴も、長年義歯に慣れている患者様の場合は特殊な事情がない限り必要十分条件を満たす処置方針とはならない、もしかしたらインプラントを使用しなくても長期に経過するのではないか?と判断し、旧義歯と同様のコンセプトで補綴を行う決断をしました.しかし、端的にコーヌスによる補綴を行えば支台歯の長期経過を予想できるかというと、そうでもない事を旧義歯の補綴時から現在までの既往歴が教えてくれました.経験の少ないトランスファーコーピング法による義歯完成までの過程と、短いですが術後経過についてご査証、ご批判いただきたく出題しました

【まとめ】
 少数歯残存のケースは咬合力が小さいと思っておりましたが、補綴方法によっては以外とそうでもなく、補綴後の食習慣や義歯の調整についても配慮が必要かと思いました。
術直後につくられた嵌合位とガイドは義歯では割と早期に変化してしまうため、こまめな調整が必要である事がわかりました。
キーワード:【トランスファーコーピング法】【GoA】【コーヌスクローネ】 

遊離端欠損の回避を試みた一症例
A case report tried to avoid free-end defect
横山 大樹 (包括歯科医療研究会、卒後6年目)

【要旨】
患者:60歳 男性
初診:2006年7月25日
主訴:左下8番が痛い、左前と左上奥のBridgeがグラグラする

歯式:

10年ぶりに歯科医院に来院された患者さんです。急性症状のある左下8番への対応後、歯周初期治療を行いました。もう一つの主訴である左上① ②3④Bridge 、 ⑤6⑦Bridgeの支台歯はいずれも動揺しており左上2番はhopeless、左上7番に関しては動揺が大きく根分岐部病変も有り保存できるかどうかわからない状態でした。また右上7番も左上7番と似た様な状態であり、この2本を失うと動揺歯(左上4番、5番)を含む遊離端欠損となってしまう為、上顎左右側7番の保存を最優先に考えながら処置を行っていきました。上顎左右側7番ともに遠心根を抜根し廓清のための歯周外科を行い、力を開放することにより動揺が無くなり、保存できる状態まで回復しました。  初めは上顎左右側7番にもクラウンを被せクラスプデンチャーにて補綴を行う予定でしたが、TEKを被せ咬合させると動揺が増してきた為、2次固定効果を狙いコーヌスデンチャーへと補綴設計を変更しました。仮義歯にて様子を見たところ動揺が収まってきた為、最終補綴物へと移行しました。  諸先生方のご意見、ご教授をいただき、今後の臨床に活かしていきたいと思います。よろしくお願い致します。

【結論】
・上顎左右側7番を保存することにより、遊離端欠損を回避することができました。
・補綴設計をコーヌス義歯とすることにより、支台歯の動揺を減らすことができました。
・予後不安な歯牙を補綴設計に取り込んでいるので、慎重に経過観察を行う必要があります。 
キーワード:【遊離端欠損】【補綴設計】【歯牙保存】


垂直性骨欠損への対応
A Case Report of Intrabony Defect
岡本 典之(火曜会、卒後8年目)

【要旨】
深いポケットへの対応としては炎症のコントロールを行いながらSRPを行い、力のコントロールを行いながら自然挺出や矯正的挺出を用いて治療を行っております。しかし歯牙移動を伴う治療は生活歯や歯根の長さ、支持組織量などによっては対応出来ない場合があると思います。そのような場合に歯周外科とともに再生療法を併用しています。
しかしながらいつどのタイミングで再生療法を用いるべきか臨床的な判断に悩んでおります。今回はSRPで対応した症例と歯周外科とともに再生療法を併用した症例を提示させて頂き、諸先生方にご意見、ご指導を頂きたいと考えております。

【結論】
  1. 第1症例では高い回復力であると判断し、非外科で対応しましたが、安定した経過をたどっています。
  2. 患歯が生活歯や歯根が短いなどにより挺出が困難な場合は再生療法が有効であるとも思います。
  3. 再生療法を選択する時期に悩んでおります。

キーワード:【垂直性骨欠損】【歯牙移動】【再生療法】 



設計に悩んだ上顎犬歯欠損症例
Case report of upper canine missing using telescope crown
小林 裕介(KDM所属卒後10年目)

【要旨】
患者: 60歳 女性
初診:2006年1月18日
主訴:前歯を入れたい
現病歴:1ヶ月ほど前、近医にて上顎前歯を破折にて抜歯された。その後テンポラリーも装着されず
    ブリッジの説明をされたがセカンドオピニオンを求めて受診。
歯式:
補綴後歯式:同上
【要旨】  欠損補綴の手法としては可徹性義歯、ブリッジ、インプラントがあるが、一般的に可撤性義歯を呈示した場合装着感や着脱の間際らしさから患者から敬遠される傾向が有る。一方インプラントやブリッジによる補綴では喪失した軟組織の回復に苦慮する場合もある。可徹性義歯による補綴がブリッジやインプラントと異なるのは喪失した軟組織を容易に回復できる点が挙げられるが、症例によってはブリッジやインプラントによる補綴よりも審美的な状態にできる場合が有るように考えている。
 今回、犬歯を含む上顎前歯欠損にコーヌス義歯を用いた症例を経験したので経過は短いが交えて発表したい。

【結論】
欠損補綴にあたっては容易にインプラントやブリッジを選択される場合が多いが、残存歯の配列や病態によっては可徹性義歯でも十分に対応できる事を経験した。
とくに、軟組織の回復にあたってはテンポラリーを熟慮することにより義歯床での回復でも患者側の満足も得る事ができた。
キーワード:【犬歯欠損】【補綴設計】 


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