'10 臨床歯科を語る会概要

全体会

担当:松井

 臨床歯科を語る会の発足のいきさつは、スキー同好会の集まりが、日常臨床で困ったことを語り合ったのが原点で、火曜会「あるスタディグループの歩み」刊行が契機になり、第1回臨床歯科を語る会が1981年都ホテル東京でスタートしたと伺っています。
 紆余曲折を経て早30年の歴史を刻むことになりました。その間、実行委員長をはじめ実行委員、スタディグループ、歯科雑誌社や業者など多くの方々に支えられて、現在、300名程の会員で構成され活動しています。
 カリエスや歯周疾患に対しての歯牙保存、欠損歯列に対する考え方、欠損補綴へのリジッドや欠損改変の対応、力という捕らえがたい存在への取り組み、それぞれの時代に何が必要であり、何が重要であるかを真剣に真摯に語り合い今日があると考えています。たとえ一例報告でも術者の患者への想い、臨床へのこだわり、経過観察の中からの考察が発表されることで、同じ俎上で語り合えることは有意義であり、語る会の基盤をなしています。
 30周年記念を迎えるにあたって、発足当時を知る面々は数える程になり、ほとんどの会員は語る会の意義を継承の形で心に刻んでいます。この機に語る会の原点を、そして、その時代時代に何を大切にして来たか、今後の臨床歯科を語る会と歯科臨床の未来像に対しての展望を歴代実行委員長にご披露して頂き、臨床に対する熱き想い、研鑽の重要性を後陣が受け継ぐ機会にしたいと考えています。


全体会
欠損歯列における自家歯牙移植

担当:西原・日高

 自家歯牙移植の歴史は、論文を紐解くと1950年代に遡り、1990年代に入り広く臨床応用されるようになりました。臨床歯科においては1999年度の分科会「自家歯牙移植の術後経過」で移植に対する予知性を高める術式が、2004年の全体会「欠損歯列への移植・インプラントの応用をめぐって」ではそれぞれの利点を生かした用い方・適応症が討論されました。自家歯牙移植は移植歯に生物学的特性を有する歯根膜が存在することが最大の利点でありますが、 技術的に難しい場合が多く、適応症に対する考え方も個人個人で異なるように思います。
本全体会は、「欠損歯列における自家歯牙移植」というテーマのもとに、8つのスタディグループの代表者に参加していただきます。また
1.自家歯牙移植における歯根膜の応用・術式
2.欠損歯列への自家歯牙移植の応用
3.自家歯牙移植の長期経過から
の3つの話題から、代表者によるシンポジウム形式の発表と討論を通じて、自家歯牙移植の術式の確認と新たな可能性、どのような症例に自家歯牙移植が有効かを再度検討したいと思います。さらには、個人・個人またはスタディグループ間の自家歯牙移植の考え方の相違を浮き彫りにしたいと考えております。
最後に「歯根膜による再生治療」を昨年度上梓された火曜会・下地勲先生にまとめとして御講演いただきます。

参加スタディグループ:一の会 火曜会 KDM 救歯会 剣の会 富山臨床懇話会 NDの会 包括歯科医療研究会


「適応症の拡大と歯周組織再生の可能性」   包括歯科医療研究会 梅津 修
自家歯牙移植は、様々な条件を満たして適応となるが、全ての要件を満たす症例は多くない。今回は、健全な歯根膜が十分にある移植歯の存在を前提に、顎堤の条件が悪い(幅や高さが無い)症例への術式と考察を発表する。
1)顎堤の幅が無い場合
移植床を形成する際、頬側の骨壁を完全に除去する。その骨壁を2つに割り、皮質骨側を移植歯の歯根面に添えることで、血餅がたまるスペース(再生の場)ができる。
2)顎堤の高さが無い場合
移植歯を植立する位置を、周囲の歯槽骨を基準とする通法よりも浅い位置とする。また、歯肉弁を歯冠側に寄せる。その結果、歯肉弁・歯槽骨・歯根膜に囲まれた血餅がたまるスペースができ、歯周組織再生の可能性が増す。
3)固定期間
1)・2)のいずれの場合も、移植歯と移植床との適合はルーズである。そのため移植歯の固定期間は長め(約3ヶ月?)にする必要があると思われる。移植歯に動揺があると骨が再生しにくいからである。


「上顎洞挙上移植移植により欠損歯列改変をした症例」      火曜会 斎田 寛之
上顎の片側遊離端欠損は片側処理ができなかった場合、パラタルバーというハードルを抱えている。パラタルバーを受け入れられなかった場合、欠損の放置が許されない症例においては欠損歯列の改変が必要となる。
本症例は生涯初の欠損を右上に抱えることになったが、パラタルバーを受け入れることができなかった。そこで、欠損対顎に存在した加圧要素の下顎智歯を上顎欠損部へ移植することで欠損歯列の改変を行なうことにした。しかし上顎臼歯部の上顎洞までの骨量が少なく、歯根膜の力に期待をし、ソケットリフトを併用して移植を行なうことになった


「ロングスパンブリッジ回避のための自家歯牙移植」    富山剱の会 川上清志
 「失われた生体が再び生体によって咬合支持を担う」といった'歯根膜の存在'が、自家歯牙移植の最大の魅力であり利点だと考えている。そのため欠損歯列におけるドナーの存在意義は大きいが、その歯根形態や歯根膜量、供給側の顎堤条件、欠損歯列状態、残存歯状態、固有の咬合力など、実際のところはさまざまな条件により規制があり、必然的にケースによってはその利用目的も変わってくるものと思われる。口腔内全体の状況を加味し、限られた持ち駒を有効に活かす適材適所も臨床の醍醐味の一つと考えている。
 それを踏まえ、今回咬合力の強いと思われるEichnerB1のぺリオ症例に対し、より確実な咬合支持獲得のため、歯列改変には強固なインプラントを、条件の悪い2歯欠損のロングスパンブリッジ回避には自家歯牙移植を利用した、持ち駒となるドナーの状態を考慮して行ったケースを提示してみたい。


「移植・再植により歯根膜を有効利用した一症例」      NDの会  廣瀬 和人
 日常臨床で、移植のドナーと受容部が理想的に用意されているようなケースは稀で、ドナーの歯根膜を活かすために歯肉や骨のアレンジが必要になり、技術的な難易度が上がってしまうことが多いように思われます。しかし、いわゆる残根の外科的挺出を広義の移植と捉えれば、遭遇する頻度はかなり高いがその難易度は決して高くはありません。しかも、場合によっては他部位への移植に匹敵するような効果を上げることもありそうです。
 今回提示する症例は、他部位への移植を1カ所、外科的挺出を2カ所行い、上顎の義歯回避、下顎の鉤歯増員、咬合支持の追加が出来た症例です。通常の診断基準からすれば当然抜歯選択の歯牙もありますが、患者の力の要素が弱く、歯周治療の反応が良かったことが経過良好の要因と思われます。
 患者概要:1952年生 54才 女性
 初 診:2006年11月
 主 訴:左下の歯が動く むし歯多数 義歯の経験なし
 移 植:右上8→左下6
 外科的挺出:右上3 左上4


「下顎両側智歯を移植した一症例」    富山臨床懇話会 土肥勝博
1993年1月初診37才女性。 G76DC|ブリッジ脱離を主訴に来院された。欠損部のスパンが長く、8|には対合歯が無いためポンティック部に剪断応力がかかりやすい。再度同じ設計で補綴処置を施しても予後不良と判断した。そこで8|7|部へ移植し、短い中間欠損に改変して補綴する治療方針とした。
反対側は|DE7Gブリッジが装着されていたが、|8は片側脱離で二次カリエスが進行し、|6は歯根破折で保存不能であった。|6を抜歯後に右側と同様の処置方針とした。
両側とも同様の術式で処置したにも拘らず、全く異なる経過を辿った。左側移植歯は、最初に歯根舌側面に置換性吸収が発現し、それが炎症性吸収へと移行した。歯根吸収の進行が止まらず移植後12年半で抜歯となった。右側は、移植後約17年経過。歯肉退縮および歯槽骨の吸収が認められる。


「移植歯の長期安定を目指して」     一の会  新井俊樹
 自家歯牙移植(以下、移植)の欠損補綴への応用は、日本の土壌で進歩した独自の治療法といっても過言ではない。既に移植歯の経過年数が20〜30年を越える報告も見受けられる。10年以上経過良好な症例が多数存在しているからには移植の予知性が低いからインプラントとは言えなくなってきた。ともすれば移植はテクニックセンシティブな一面を指摘され敬遠されがちである。しかし歯根膜を大切に扱い、歯根膜細胞が生活するための場と十分な血液が存在し感染させない環境を与えられれば成功に導くことは容易である。歯科医の本分として歯の保存を第一義とし移植の長期安定を目指しインプラントが必要になっても生涯で最小限にとどめる臨床を目標にしたい。


「全体会のまとめ」      火曜会 下地勲
8人の先生方の以下の三つの項目に関する御発表を受けて報告する。
1.移植における歯根膜の応用:移植後、移植歯の歯根膜の再生機能によって骨欠損が大きかった受容側の顎堤が再生したケースを提示する。
2.欠損歯列への移植の応用:欠損歯列をつくらない、拡大させないための有効な処置として、長い中間欠損、遊離端 一歩手前、遊離端欠損への自家歯牙移植の応用例を提示する。
3.自家歯牙移植の経過から:術後30年を超える長い経過を示す歯根未完成歯移植例を示した上で,長期生存のためには、移植後に起きるトラブルの的確な診断と対応が重要であることを述べた.症例としては歯根吸収(炎症性吸収、置換性吸収)と付着の非獲得のケースを提示する。
図説:狭い顎堤が歯根膜によって再生され、移植が可能となった。


御講演
林 康博先生

担当:山口

 歯科医療の技術向上のポイントは「経過観察」にある。経過観察を行わないままただ治療をするだけでは、はたしてその診断や治療が適切であったのかさえ まったくわからない。経過観察を続けながら治療の判定を行い、その経験を次の治療にフィードバックしながら段々と自分のレベルを高めていく、それが歯科だけでなく医療本来の姿である。そういう意味で「ケー スカンファレンス」は大変重要な作業であり、特に治療が複雑である「歯科」においてケースカンファレン スが勉強会の主軸であるのは当然の帰結である。
 しかし、ケースカンファレンスだけで全てが分かるかというとそうではない。ケースカンファレンスはあくまで術者が任意に選んだひとにぎりの症例であり、自分が行っている全ての仕事を表すわけではない。特に研究に関して、その一握りだけで物を言おうとする と、どうしても話がぶれてしまうのである。自分では「左」だと思っていたのだが、集計してみると意外と「右」と言うことが少なくない。そのように、最終的には「数字」で表してみないと物事はなかなか分からないものである。  では、そういった臨床研究が大学の仕事かというと、ご存知の通り各科に別れた大学では一貫した治療 自体なかなか難しい。そう考えると、一貫した治療の 経過を追えるのは一般開業医だけなのかもしれな い。つまり、これまで研究はすべて大学の仕事だと思われてきたが、特に臨床研究に関しては、これから一 般開業医が積極的に参加していく場面も多くなるよう に思われる。
 そういうこともあって、ファイルメーカープロで データベースを作成し、これまで可能な限りの臨床記 録を入力してきた。ソフトのベースは術前・術後・最終来院時の歯式、それにX線写真と口腔内写真である。歯式がそろっているもので1,000症例、その平均経 過年数が11年半、また20年以上を超えるものも250症例を超えている。またX線写真が揃ったものでも600症例は越えている。
 もちろん、中には悪い経過をたどったものもなくは ないが、いずれにしてもこれが自分の臨床の歴史であることは間違いないのである。試行錯誤で作ったものでもあることから、ぜひ忌憚の無いご意見を賜りたい と思っている。



シンポジウム
咬合と力の問題をコントロールする
(担当:熊谷・野村)

   歯、歯周組織、歯列の崩壊原因のひとつとしての「力」の関与は、その証明が難しくとも、無視するわけにはいきません。どこまでの力が許容できるのか、見えない「力」とその影響をどのように検査、診断するのか、またどのようにコントロールしていくのか、臨床の中で悩むことも多いのではないでしょうか。そこで今回のシンポジウムでは、診断を踏まえた上で、「力」のコントロールの可能性についてディスカッションできればと考えました。
Chapter1は、 “知っておきたい「力」の診断”ということで、牛島先生と森本先生に 「力」の整理、また臨床実感、臨床統計からご意見をうかがいます。
Chapter2では、“力はどこまでコントロールできるのか?”というテーマで、悪習癖への対応を仲村先生、ペリオに関連した内容を千葉先生に、咬合・補綴によるコントロールを永田先生にお願いし、その臨床対応をご紹介いただきながら、「力」はどこまでコントロールできるのか、どのようにコントロールするのか、またその問題点などについてディスカッションしたいと考えています。

  • 第1部 知っておきたい「力」の診断
    1、「見えない力の交通整理―ブラキシズムをどう知るか」 : KDM 牛島 隆 先生
    「力」の問題を考えるためには、それが機能的なものなのか、非機能的なものなのか、どういったブラキシズムなのかなどが判断できなければ、対応どころか、変化の診断さえも困難です。
    今回のシンポジウムのとっかかりとして、複雑に入り組んだ糸を少しでも解きほぐすための交通整理と解決のための手段について考えてみたいと思います。


    2、「口腔内の現症をどうとらえるか」 : 包歯研 森本達也先生
    「力」の関与はその鑑別が難しく、仮説の域を脱することができません。少しでも診断の確立を考えたときに、自分の症例の中から力の関与が疑われるような現象を提示していく事が重要だと考えています。
    今回はそのいくつかの調査を提示し,方法論とともに力の影響を考察します。


  • 第2部 「力」はどこまでコントロールできるのか
    3、「セルフコントロールの試み」 : 火曜会 仲村裕之先生
    咬合力が問題になる患者さんは、起きている間にTCHの頻度が多かったり、咀嚼時にも局所で強くかんでいる傾向があるようです。
    このような患者さんへのアドバイスの仕方の一例を紹介したいと思います。


    4、「歯周病を抱えたブラキサーにおけるナイトガードの効果と限界」 : 火曜会 千葉英史先生
    ブラキシズムは歯周病の進行を加速する修飾因子です。クレンチングは癖ととらえ、難しさはあるものの患者指導により原因除去を図ってきましたが、夜間のグラインディングは中枢性の問題によって起こる現象で止めることは困難なため、必要と考える場合には対症療法として上顎へのナイトガード使用で対応してきました。今回は初診時40歳代3名の20年の経過から、歯周病を抱えたブラキサーにおけるナイトガードの効果と限界について考えたことをお話しします。


    5、「咬合、下顎運動における力のコントロールへの取り組み」 : KDM 永田省藏先生
    オクルージョンから見たパラファンクションの様相として、顎位と顎運動の2つの局面で捉えた場合、顎位においては、クレンチング症例での咬頭嵌合位付近における後方支持歯の問題、一方、顎運動に関するものでは、グラインディング例の前歯の磨耗、ナッシング例における側方歯の被害など、機能域を超えた下顎運動の問題が挙げられます。今回はアンテリアガイダンスと力について考え、ガイドの角度や方向、さらに、強さや範囲の問題をこれまでの臨床例から検討します。

  • 総合ディスカッション   座長 熊谷、牛島先生



特別講演
「私の考える総合歯科臨床」-障害児診療から38年-
押見 一先生

(担当:甲田)

   歯科大学を卒業して2年目から33年続いた施設での障害児診療は、私の歯科医師としてのスタンスを決めてくれた。始めたキッカケは他愛もないことだったが、長く続けられたのは無理せず自分の出来ることをやったのと、そこで子供たちとお世話をしている方々に励まされ、教えられることが多かったからだと思う。勿論そんなことは意図も想像もしなかったことだが、大分してからそこで経験したことが私の臨床のキーワード「プラークコントロール」「接着」「自家歯牙移植」「ブラキシズム」「マルチディシプリナリー」を浮かび上がらせてくれたのだと気づいた。
 自分一人で何でもやるというスタンスは当時の施設の環境では当たり前のことで、それがいつのまにか自分の診療室でも日常のこととなった。専門医制度の盛んなアメリカの真似をしてインターディシプリナリー デンティストリーが目指す目標と考えている方もいると思うが、果たしてそれでよいのだろうか。もし自分が患者だったら特別の場合を除いて、各科を回って何人もの先生より、昔からの良く知ってくれている一人の先生つまり、本当の意味での「かかりつけ医」に診てもらいたいと思う。臨床各科についての知識はもとより、経験に裏打ちされた洗練された手技と、患者という一人の人間についての理解は、短時間で出来るほど簡単なことではない。
 こんな風にやろうと思ったのは、卒業する少し前に無歯科医村、僻地診療などに多少関心を寄せていたからだと思う。スルーパスなし、自分で全て引き受けるのだ。手抜きをすれば自分に返ってくる。上手くできれば患者と共にその喜びは計り知れない。逃げない、そらさない、線を引かない。そんな診療がやってみたいと開業当初から思っていた。
 ただ最近は、私などには手に負えないとんでもない処に行くことになるかもしれないという感じもするのだが、そんな時いつも「目の前の苦しんでいる患者の中に、明日の医学の教科書の中身がある」という東大医学部内科の故沖中重雄教授の引用された先人の言葉が思い出される。


シンポジウム
欠損改変のためのインプラント植立への考察
(担当:楡井・折笠)

アンケート結果をふまえて
「欠損改変のためのインプラント植立への考察」企画意図と発表者抄録

企画意図
 臨床歯科を語る会の会員にインプラントの使用状況と、難症例の一つにあげられる「長い遊離端欠損」への対応についてアンケートを行った。その結果、臨床経験とインプラントの経験は多少の相関関係にあったが、経験年数と年間使用本数は相関関係が認められず個人差が大きく、強いて言えば臨床経験20年未満の若い先生が比較的多くのインプラントを用い、臨床経験が20から30年の先生が少なめで、30年以上になると0か100と言った具合で非常にばらつきが大きいことがわかった。「長い遊離端欠損」への固定性の補綴物を選択した理由の約7割が「患者の希望」であり、可撤性の補綴物を選択した理由の多くが「最小限の侵襲」「術後対応の容易さ」であった。選択理由から、どのような場合に可撤性・固定性それぞれのアドバンテージを認めるかを明確にするのは難しいように思われた。
「長い遊離端欠損」に対して症例数では固定性での対応が圧倒的に多いが、術者数では可撤性の補綴物での対応者が多く、そのほとんどの経過年数は2年前後であった。以上から「臨床歯科を語る会」の特徴として、欠損歯列の評価から問題点を探り、仮義歯や既存義歯に実際どのような力が加わるかを検証し、その義歯に不足している要素(維持、支持、把持)を補うためにインプラントを必要最小限の範囲で使おうとしているのが読み取れる。しかし、その対応は経過年数からも未だトライアル的であり、試行錯誤を繰り返している現状であろうと推察された。そこで、インプラント支台の可撤性補綴物に先行して取り組んでいる4名の先生に、過去の分科会でも今後の課題とされていた項目などについて発表していただき、可撤性補綴物とインプラントのあり方や使い方を整理できればと考えている。

アンケート結果はこちらからご覧になれます。→PDF資料

インプラントの負担能力と埋入本数          須貝 昭弘
 当初インプラントの負担能力への疑問から解剖学的条件が許せば欠損歯数と同じインプラントの本数を埋入してきた。原則的に天然歯との連結は行わず、特にインプラントを埋入する欠損側の歯牙に動揺がある場合などでは天然歯に足を引っ張られることのないような設計を行ってきた。すべてが固定式の上部構造であったが各症例の予後は様々であり、単純にインプラントの負担能力を評価することはできそうにない。一方パーシャル・デンチャーの支台としてインプラントを使用することも一般的になってきており、自分の臨床でもインプラントや動揺歯を巻き込んでワンユニット化したものも行っている。その予後はインプラントの負担能力は、かなり高いことを示している。過去を振り返ってインプラントを埋入し過ぎたかという疑問も出てくるが固定式にするのか可撤式にするのか、埋入する目的は何なのかなど、未だに埋入本数に対する考えは症例ごとに揺れている。


インプラント植立の時期について           松田 光正
 パーシャル・デンチャーにインプラントを用いる目的は受圧条件の改善による残存歯の保護であると考えています。長い遊離端欠損やすれ違い咬合に代表される不利な欠損形態に少数のインプラントを用いることで義歯の機能は格段と向上します。
 しかしながら、対顎にとっては植立されたインプラントは強力な加圧因子の出現となります。欠損形態や残存歯の配置からインプラントが必要な部位は予測がつけやすいのですが、対顎への影響を考えると慎重にならざるを得ません。天然歯側の残存歯質量や歯周炎の進行度といった病態はもちろんのこと噛み癖、咬合力といった術前には予測し得ない不確定な要素も大きく関係してくることがその理由です。欠損進行を予防すべく植立するのか、経過の中での植立かを結論づけることは難しいと思いますが、術後経過から見えてくるものはあると考えています。


遊離端欠損症例におけるインプラントの植立位置    松井 宏榮
 インプラントを用いた欠損改変では、最大限の受圧条件と最小限の加圧要素の改善、すなわち欠損歯列が持つ問題点の改善のみへのこだわりが存在すると考えています。なぜなら、インプラントによる受圧条件の改善は、ともすれば過剰な加圧要素になりかねないからです。可撤性の優位性としては、必要最小限の外科的侵襲とリスク回避や術後対応の容易性が挙げられます。また、インプラント支台の力の開放だけでなく、義歯床の粘膜負担や天然歯支台の歯根膜感覚機能も期待できます。
 欠損改変におけるインプラントの植立位置ですが、術前対応か術後対応か、また、4点支持期待か一歩手前への対応かにより、欠損改変への期待や取り組みが変わります。さらに、上下顎の解剖学的条件の違いや対合歯の受圧条件、さらに既存の補綴物利用などによる植立位置の自由度にも関係してきます。そのため、それぞれの症例の欠損改変の目的や植立可能な条件により、植立位置が決定されるものと考えています。


             可撤性義歯を支援するインプラントの在り方      金子 一芳
 インプラントは臼歯部咬合支持の回復が最大の役割で、前歯部に美容的に使用するものではない。パーシャル・デンチャーの支援にインプラントを使うのも、ほとんどの場合、受圧要素を追加して咬合支持を確実にすることが目的である。過大な咬合力を背景にした顎位低下などが現存している場合には、補綴間隙など現実的な問題を含め顎位改善と維持が可能かどうかの判断が最優先する。また片側遊離端欠損のような状態があっても、力の関与が大きくないと思われる場合には、従来法のパーシャル・デンチャーで対応は可能である。
 プロビジョナルで経過を見る必要性もこうした力の問題を、初診時の欠損形態などだけで判断できない場合である。しかし最終的に選択する設計の鍵となるようなプロビジョナルでないと、通過儀礼としてのステップにとどまり最終補綴に反映できない。アンケートにしばしばみられるような固定性優先、可轍性蔑視の思想がある限り、パーシャル・デンチャーは新時代に入れない。



早朝ジョギング・ウォーキング

(担当:山口)

   語る会の新企画、早朝ジョギング・ウォーキングです。新会場になって周辺にはウォーキングコースもあり、最終日の全大会に向けて、前夜の酒びたりになった頭をすっきりさせ、歩くのもよし、走るのもよし。皆さんの体調に合わせてご参加下さい。語る会の脱メタボ企画ですので、皆さん大いに臨床を語って、歩いて、美味しい朝食を食べましょう。
さあ、ラストスパートです。