'11 臨床歯科を語る会概要

全体会

担当:松井 筒井

 欠損歯列のディスカッションをするとき、どこかに対象を絞りこまなければ話はまとまりません。そんな必要性から症例を区分することが始まったのでしょう。しかし欠損形態から分類したケネディの分類も、臼歯部咬合支持域で分類するアイヒナーの分類も、入り組んだ現症を一つの切り口で観察した結果でしかありません。
 こんなことは誰でも分かり切ったことですが、いざとなるとおかしな質問が出てきます。「67欠損でアイヒナーB1なのですが、8番があるときはどうするのですか」「両側遊離端欠損で下顎の4があるのでB3なのですが、4は付着が少なく残せるかどうかわかりません。」といった類です。術者しか8や4の状態はよく分からないのですから本人が決めるしかなさそうです。それに敢えて決めてみてもそれが何かに役立つのでしょうか?。ケースプレのセレモニーになっているだけではないでしょうか。
 移植やインプラントで欠損歯列の改変が広く行われるようになった今、過去の欠損歯列の分類は次第に意義を失いつつあります。治療の早い段階で埋入が行われ、ブリッジやパーシャル・デンチャーの設計はその後についてくることも少なくないようです。改変の必要性や効果をふまえての新たな症例の考え方について私見を述べた後、皆さんと一緒に考えて見たいと思います。


分科会
1.「 インプラント支台のパーシャルデンチャー」 −片側性対応の可能性−

担当:折笠・筒井

 すれ違い咬合症例や上下の欠損歯数の差が大きい症例、あるいは過大な咬合力の欠損歯列症例などに対して、最小限のインプラントを用いて欠損形態を改変したり、受圧条件を改善し残存歯を守るという手法は、ここ数年、臨床歯科を語る会で取り上げられ、ディスカッションが行われてきました。
 インプラント支台のパーシャルデンチャーにおいては、当初はインプラントの負担能力が未知数であったため、サポート重視の補綴設計が多かったように思われます。しかしその後の報告などから、側方力に対してもある程度の抵抗力があるのではないかと考えられるようになり、サポートのみではなくブレーシングを追加したコーヌスタイプの支台装置を用いるケースも増加しているように思われます。
 そこで、今回はインプラント支台のパーシャルデンチャーの次の一歩として「片側性対応の可能性について」検討したいと考えております。片側遊離端欠損では両側性の義歯は受け入れられにくくその対応に苦慮してきましたが、インプラントを最小限に用いることにより片側対応が可能となる症例もあると思われます。次の3つのパートに分けて進行していきたいと考えています。
  1. インプラントと天然歯との連結固定について(統計データや長期経過症例の提示)
  2. インプラント支台の負担能力の検証(インプラント支台のパーシャルデンチャーにおける長期安定症例や失敗症例の提示)
  3. 片側性対応の可能性を探る(片側性対応した症例提示と今後の展望などについて)

担当:熊谷、野村

 無髄歯に対する補綴処置を行う上で、コア、ポストの重要性は言うまでもありません。現在では鋳造支台築造だけでなく、象牙質に接着する築造用レジンおよびレジンセメントの開発も進み、ファイバーポスト併用レジン支台築造も広く応用されるようになりました。ファイバーポスト併用レジン支台築造は、鋳造ポストと比較して、特に前歯部の処置では審美的に有効です。また歯根破折の予防を考え臨床応用されているようです。その結果、ある程度の経過を追えるようになってきたと思われますが、脱離、ファイバーポストコア破折等のトラブルも報告されています。
 そこで、「臨床経験から得たファイバーポストの実際」として、材料に詳しい先生にコメントをいただきながら、経過良好症例、トラブル症例を提示いただき、鋳造支台築造との比較や注意点、使い分けなどを討論したいと考えました。

担当:山口・ 林

 上顎大臼歯におけるV度の根分岐部病変への対応についてはしばしば頭を悩まされます。3根3分岐が咬合面観で三角形に位置し、2根1分岐で小臼歯2本とも捉えられる下顎大臼歯とは大きく違うからです。病態把握から難しく、闇雲に保存したとしても清掃性や力の問題から経過不良に陥ることは容易に想像されます。小さい単位ながら高度な臨床判断が要求され、歯周治療から補綴処置までの総合力が問われる問題です。
 歯槽骨のあるうちに抜歯してインプラントという考えもあるのだろうと思いますが、この分科会では保存をめざした取り組みを話題にします。病態の把握、残存支持組織と荷重負担の見極め、分割や抜根の選択、やむなくの抜歯判定、補綴物形態への配慮、隣在歯との連結の決定、経過から診療へのフィードバックなど、さまざまな問題とそれに対する臨床判断を提示していただきたいと思います。
 参加者には発表要領をご案内し、5月末を目処に画像提出をお願いしたいと考えています。若い先生には資料が揃っていれば悩んでいる症例でも結構です。一方、ベテランの先生にはこれまで発表されてきた症例でも構いませんので納得や反省の症例の提供をお願いします。臨床歯科を語る会ならではの分科会にしたいと考えています。


テーブルクリニック
1.「 日常臨床におけるマイクロスコープの有用性」

担当:福田・宮田

 近年、ルーペのみならずマイクロスコープを用いた拡大下での歯科治療が増加しており、その有用性が注目されています。日本においてマイクロスコープが歯科臨床に用いるようになり広がり始めたのは約15年前だと思われます。そしてこの15年間でマイクロスコープの普及率は飛躍的に伸びましたが、マイクロデンティストリーに対する情報は決して多いとはいえません。従来の根管治療は見えないところを手探りで行い、経験や手指の感覚で治療を行ってきましたが、マイクロスコープの使用で根管系を可能な限り直視しながら処置でき、また根管内の破折器具の除去、穿孔部の封鎖処置、歯根破折の確定診断など従来の方法では困難であった症例への対応などが、マイクロスコープの応用で全く新しい展開をもたらしたように思います。また最近では歯内療法のみならず修復、歯周等関連領域への適応拡大もあり今後マイクロスコープは歯科治療にあって欠かせないものとなりつつあるように思います。今回、前半では現在日常臨床においてマイクロスコープを有効に使用している先生方数名にマイクロスコープの有用性についてご教示して頂き、後半ではマイクロスコープの基礎知識の紹介、デモ、そして実際体験していただき今後の臨床応用の一助となればと考えております。

担当:日高・折笠

 この半世紀の歯科補綴臨床の最大の変革は、間接法の確立と言えます。 1960年頃に電気エンジンからエアータービンに代わり、弾性印象材の登場や座位診療などの確立が全顎補綴を可能にしていきました。当時の先達の先生方は例外なく今の言葉で例えれば「臨床の達人」で診療室から技工室までの作業に精通されており、インレーの神様といわれた先生は「鋳造の○○か、○○の鋳造か」と言われるほどの存在だったと伺っています。
 今回のテーマに関連する間接法は、その後の歯科技工士制度が生まれることにより院内の作業分担として確立して行きますが、各医院の対応は様々だったと考えられます。時代の趨勢で 補綴処置の中の大きな部分が技工の守備範囲に移って行きました。手間ひまがかかり難しい技工作業は敬遠され、不採算部分のツケは歯科医院から外注ラボに流されているのが実情と思われます。入り口と出口だけは管理しているもののその実態は把握していないのが歯科医院の現状と言えます。
 しかし、これ以上分業化が進むことは歯科臨床にとって望ましいこととは言えません。院内と外注ラボとの連携もどれほど危うい接点でつながっているかは計り知れません。多くの歯科 技工士が離職していくという現実も重要な問題です。このまま進んで行けばCAD/CAMや海外発注など、より複雑な分業に流れていくことは間違いなさそうですが、この職種から優れた人材が失われてもコンピューターがその代わりをしてくれるでしょうか。「うちの医院は大丈夫」という前にその周辺の事情がどうなっているかを考えてみたいと思います。

担当:松井・熊谷

  臨床において外科的な治療が必要となる場面に数多く遭遇します。
歯周疾患における垂直性骨欠損への対応や付着歯肉獲得のための歯周外科、 再生療法を期待した再生再植、歯牙移植の適応症の拡大、ブラケット装着のための開窓術やMTM後の歯周環境の整備、歯肉縁下カリエスや歯根破折の対応としての外科的挺出、 外科的歯内療法としての歯根端切除、辺縁歯肉の安定や咀嚼発音障害を改善するための頬舌小帯切除、矯正のための完全埋伏歯抜歯など数え上げれば枚挙に遑がありません。外科手術には基本的な神経脈管系の解剖や歯根膜上皮組織などの組織学的な知識が必要であり、切開線や縫合法など多彩なアイデアが良好な結果に繋がることが多いと考えています。また、段取力と言われる様に外科処置の手順やアシストとの連携がスムーズであれば治療時間が短縮し、予後の善し悪しに影響するばかりでなく無駄な労力を費やさなくとも良くなることがあります。
 歯界展望「歯と歯列を守るための歯根膜活用術」の歯根膜を活かした治療法で、静止画と動画により術式を提示したところ読者より具体的で参考になったと評価を頂きました。そこで、外科治療の必要性、解剖学的問題点、組織学的要素などを提示した外科小手術を供覧して頂き、臨床に役立つ一助になればと考えています。


講演
「総合治療がもたらすもの」    新井俊樹先生
(担当:松井)

   科学的根拠に則った治療のみで予知性の高い効果が得られるのであれば、歯科臨床は簡単であり悩むことはない。ただ残念ながら歯科臨床における真のエビデンスはまだまだ僅かなようだ。多くの臨床家が出来る限りエビデンスに基づいて治療を進め、高度な技術を駆使すれば、難症例も解決でき良好な経過を導くことが出来ると信じているように見える。そもそも技術を駆使して解決できるものは難症例ではない。崩壊の度合いと治療の難易度の関連は大きいものではないようで、主に“治癒力”と“力”の要素が難易度を決定すると考えている。つまり、個体差、個人差が問題になり、難症例では患者の内面(性格・生活)に入り込まざるを得なくなる。難症例を解決するには、強い信頼関係を築いたうえで、患者が本気で治したいかどうかにつきる。我々の責任は、総合的技術を向上させることであり、目に見えない“治癒力”と“力”の要素をあぶり出し、患者に真の原因と向き合ってもらうことで初めて難症例の崩壊を遅らせることが出来る。総合的に判断し総合的に治療を進めることで無駄のないマイナスの少ない治療が実現し、その後の問題点が絞りやすくなる。
 現在の歯科医療が、「欠損を見ればインプラントが思い浮かぶ」というような「考えない歯科臨床」に感染してしまっていることに危機感を抱いている。現時点でエビデンスと言われていること・最新の機器・材料・方法にとらわれるあまり、臨床家として患者学習から得られる観察力・問題解決能力が乏しくなっていることは否めない。
 患者学習を中心に総合治療を目指し、従来の基本治療を一つひとつ確実に行うことに固執した古典的歯科治療の威力を見ていただき、インプラント・再生療法の真の適応症は何かを考えるきっかけになれば幸いである。さらに、総合治療がもたらすものについて考えてみたい。

担当:西原・福田

  現在、インプラントは日常臨床の中でなくてはならない位置を占めるようになった。本来の適応であった下顎無歯顎の症例はもとより、今ではその使用範囲は大きく広がり、口腔内でインプラントに置き換えられない部位はほぼなくなったのではないだろうか。GBR、骨移植、即時埋入、即時荷重、審美性、インプラントの表面性状やデザインの変化、CAD/CAMなど様々なコンセプトやテクニックが紹介され、より短期間に、より自然な形態の補綴物を装着することができるようにもなった。
 一方、症例数が増加するにつれ、インプラントに関わる問題も報告されている。インプラントの生存率と成功率が区別されるようになり、治療結果がより客観的に評価されるようになってきた。特に、インプラント周囲辺縁骨の吸収の程度を経時的にみていくことはインプラントの真の成功を知る上で重要だろう。
 このような吸収は、インプラント埋入、荷重の後、1年以内の早い時期に確認されるものと、その後に生じるものとに分類される。早い時期に生じる骨吸収の要因として、生物学的幅径の確立、インプラントのデザイン、咬合力などが考えられている。なかでも生物学的幅径の確立は重要で、ツーピースインプラントにおけるgapの存在が、上皮の根尖側への移動とそれに伴う骨吸収に関係している。遅い時期に現れる骨吸収では、インプラント周囲炎や過度な咬合力などがその原因として考えられている。インプラント周囲炎に関する信頼に足る論文は未だ少ないが、今まで考えられていたよりも高い発症率があるのではないかと推測されている。
 今回はインプラントにおける代表的なコンセプトやテクニックを俯瞰し、さらに、現在のインプラントにおける問題点を、インプラント周囲辺縁骨の吸収という点から考えてみたい。


夜の部屋
車座の部屋(若手症例相談部屋 前夜祭後)

担当:西原

 本年度も昨年に引き続き、前夜祭後に若手症例相談の「車座の部屋」を企画いたしました。今回は相談役(コメンテーター)に欠損歯列の診断および処置方針に造詣が深い仲村裕之先生(火曜会)とインプラントを含め再生医療など幅広い臨床を行っている塚原宏泰先生(一の会)の2名をお招きし、2箇所で3症例ずつ程度のディスカッションを考えております。お二人とも、優しく?丁寧に御指導して下さると思います。全体会および分科会で「ちょっと発言するのは…」とお思いの先生方は奮ってエントリーおよびご参加下さい。どんな相談症例でも結構です。

担当:日高・山口

  歯科における審美に関しては、@ 補綴物のマテリアル(オールセラミックス、PFM)A補綴物にあたえる形態(補綴物の豊隆、ポンティック) Bティッシュマネージメント(FGG,CTG等)を考慮する必要があります。また、近年では、前歯部インプラントにおける審美が注目されているように思われます。今回 審美に関連した症例を数名の先生に御発表いただき、下川公一先生にコメントいただくことになりました。審美にまつわる話題は、臨床歯科では少なく大変勉強になるかと思います。奮ってご参加いただければと思います。

担当:林

 ふとしたことから出会ってしまった一台の懐かしいオートバイ
くすぶっていた恋心に火がついてしまってからがさあ大変、雨にも負けず、家族やスタッフ、世間の冷たい視線にもめげずに東奔西走し、やっと形になったと思いきや、次々と問題が・・・。やっとの思いでバイク再生のめどが立ったとたん、今度はガレージに大問題が!・・・とうとう(めでたく?)念願のガレージは建て替えるなるはめになってしまいました・・・。