境 太助(KDM・卒後10年)
【患者概要】
患者: 72歳 女性
初診:2008年7月
主訴:入れ歯を新しく作りたい
特記事項:顎位の低下
歯式:
【要旨】
患者さんは72歳女性で、2008年7月に義歯新製希望で来院されました。
以前は義歯は痛くて咬みづらかったということでした。
上下の歯数のバランスが悪く、インプラントなどによる欠損歯列の改変も考えましたが、年齢も考慮し、まずは改変なしで治療用義歯を作成しました。
強い加圧因子となっている右上67は、できれば7だけでも抜歯をしたいと考えましたが、なるべく歯を保存したいという患者さんの同意を得ることが困難でした。
テレスコープタイプの治療用義歯にしたところ、義歯の胴体は安定してきました。
補綴間隙の不足のため、前歯で3mmほどの挙上を行いました。咬合力が小さいと判断したためです。付着の量が少なかった右下1は内冠の高さを低くしています。
【結論】
下顎の残存歯は、付着の喪失も起こっており単独でクラスプデンチャーの鉤歯とするには不向きであると判断しました。そこで残存歯すべてに支持を持たせる、ワンユニットのテレスコープデンチャーを計画しました。
下顎前歯をすべて喪失すると下顎のシングルデンチャーとなり、臼歯部顎堤の状態からも、難病例になることが予想されます。テレスコープの支台歯は清掃性に優れており、辺縁歯肉も解放できることから、下顎前歯を長期的に保存するためには有効であると考えました。
患者さんの年齢と治療用義歯の経過からインプラントを用いない設計としましたが、術後約3年と短い経過においては、今のところ大きな問題は起きていません。
当初は右上7、できれば6も抜歯を行い短縮歯列にする加圧因子を減らすことができると考えました。しかし、抜歯後移植に使用できる可能性などの見返りがなければ、抜歯に対して高齢の患者さんの同意をスムーズに得ることは困難であると実感しました。