'13 臨床歯科を語る会概要

全体会(7/14)

担当:折笠・野村

 長い遊離端欠損やすれ違い咬合の症例においては、パーシャルデンチャーの安定が得られずに対応に苦慮する場合も多いと思われます。そうしたときに1本のインプラントで力の負担部位が変わり安定した経過をたどるという症例が、この会で発表されたのは10年以上前になります。
その後のインプラント支台のパーシャルデンチャーに関する取り組みの中で、インプラント植立の時期や植立位置、支台装置等ある程度コンセンサスを得られてきている部分もあります。たとえば、経過観察後の植立にアドバンテージがある、植立位置については4点支持をめざすか、一歩手前に戻す、支台装置はサポートだけではなくブレーシングを追加しても問題はなさそうである、等です。しかし、いまだ最小限のインプラントの本数、長さ、太さについては明確な基準がありません。
今回、受圧条件の悪い、長い遊離端欠損において、1本のインプラントが効果的だった症例、トラブルを生じた、あるいは限界を感じた症例を数人の演者に提示いただき、成功、失敗の境界領域を検討することにより、至適なインプラントの本数、長さ、太さについて示唆を得たいと考えています。


全体会(7/15)

担当:山口

 全顎的に重度の歯周病に罹患している場合、抜歯か保存か、歯周外科を行うか非外科か、連結の範囲や方法はどうするか、固定性補綴物か可撤性か、など治療法や補綴方法で判断に悩むことが多くあります。保存できたとしてもそれをどの程度維持できるのか予後を予測することも困難です。また、インプラントを使用するにも、歯槽骨量、残存歯との動揺性の違い、術後の感染など問題が多くあります。  KDMの東克章先生は以前より歯周治療に積極的に取り組んでこられ、歯根膜量が極度に少なくなっている症例においても、条件が整えば長期に歯を保存し、歯列を安定させることは可能であるとお話しされてきました。臨床歯科を語る会でも2004年に分科会「続・連結/固定をめぐって」で同様の症例について発表され、参加された多くの先生から、歯周治療の確かさと全顎固定性補綴の良好な経過にインパクトがあった、という声をお聞きしました。  今回はそのときの症例も交えて、少量になってもその歯根膜を保存する意義と重要性をお話しいただき、その上で外科による侵襲を避けて超音波装置を使った歯周基本治療で治癒に導く方法をはじめ、変化してきた治療のシステム、メンテナンスの方法など、歯周治療の新しい方向性を紹介していただきます。実行委員が質問症例を用意して東先生にそれに答えていただくとともに会場全体でディスカッションしたいと考えています。)


分科会
1.欠損歯列における犬歯の役割

担当:筒井

 昨年の臨床歯科を語る会で金子先生が、欠損歯列の分類からの脱却を目的に、咬合崩壊症例に対する治療方針立案と長期経過症例に対する検索、検討ツールとして「KA367」を紹介されました。今回の分科会ではKA367の咬合崩壊症例を捉える5つの視点の中の1つである、四犬歯にスポットをあてた企画を考えてみました。
 欠損歯列において犬歯のもつ役割は大きく、歯列を守るスーパースター的存在であると位置づけされ、難症例になることを防ぐ最後の砦ともいえます。咬合崩壊症例や多数歯欠損症例であっても四犬歯が存在し、その健康度が高ければ、治療の難易度も低く経過も安定しているように思われます。対して犬歯が欠損している症例では、欠損形態と受圧、加圧要素などが複雑に絡み合い一転して難症例となり、移植やインプラントによる欠損改変が必要となることもあります。
 そこで今回は多数歯欠損症例の中で犬歯の存在意義を感じた症例や犬歯欠損に対応した症例を集めてその役割を見直すとともに、KA367がそうした症例においてどのように役立つかを検証できればと考えています。ディスカッションにおいては、犬歯の有無と症例の流れ、力のバランスの読み方、最小限の欠損改変などを中心に展開していくつもりです。

担当:福田

 インプラント治療後そのインプラントの対合歯が歯根破折を起こした、守るべきはずの隣在歯を早期に喪失してしまった、このようなトラブル誰もが経験した事があるのではないかと思います。インプラント治療の評価としては以前ではその生存率が用いられることが多くみられていましたが、オッセオインテグレーションが高い信頼性のもとに獲得できるようになった現在ではインプラントが口腔内でいかに機能しているかという視点でインプラント治療を評価する必要を感じています。
 今回インプラントが応用された口腔内において、残存歯を失わずに経過することができているかどうかについて、以前にも報告されたKDMのインプラントの長期経過に関する豊富な統計データと昨年救歯会で調査したインプラントの対合歯および隣接歯の保存状況のデータを突き合わせて問題点を整理しつつ、この分科会に参加された方の臨床的な実感とデータを照らし合わせながら検証してみたいと思います。

担当:長谷川

 臨床歯科を語る会では歯牙を保存することの大切さを常に意識した話題がとりあげられていますが、歯牙を保存するという事は歯根膜を保存することであると思います。
 歯周治療はもとより、歯牙移植、矯正治療、歯周組織再生など、歯根膜の治癒能力の高さを活用することによって様々な処置が可能となり、日常の臨床のほとんどは歯根膜と向き合っているといってもよいと思います。
 また、歯根膜の恒常性維持機能や感覚機能が一本の歯がのみならず、咬合全体の維持安定に有利に働いている症例も多数あると思います。
 今回の企画では、このように魅力あふれる歯根膜を長年に渡り基礎研究の裏付けを取りながら臨床検証を行い続けておられる下地勲先生を道場主に迎え、参加者から提示いただく歯根膜に関わる症例について解説をしていただき、歯根膜の魅力とその活用方法などを再確認する企画にしたいと思います。


テーブルクリニック
1.「 術後経過からみたメタルフリー修復」

担当:宮田

 ゴールドメタル修復がスタンダードであると教育を受けてきた私たちにとって、メタルフリー修復は、取り組みにくいところがあります。しかし、近年では、セラミックの審美性や生体親和性などの利点により、患者さんからの要求は増すばかりであり、年々多くの新しい材料も発表され、その向上に伴い進歩してきています。
 2008年臨床歯科を語る会・分科会では、オールセラミックの過去の問題点や今後の可能性について協議されました。当時のまとめでは、術式を煮詰め、適応症を確立させることが重要であり、今後はジルコニアが中心になると考えられていました。しかしながら実際には、そのトラブルも多く報告されています。
 今回は、臼歯部のメタルフリー修復に限定し、術後経過からその問題点を検討し、今後のあり方をディスカッションしたいと思います。破損等のトラブルケース、対合歯に影響を与えたケースから、セラミックの物性、適合精度、接着材料と接着技法などを見直し、現在使われることの多いと思われるe-maxとジルコニアを中心に、適応症と課題を整理できればと考えています。若い先生からも多くの意見を出していただきたいと思っています。

担当:牧

 昨年の「日常臨床におけるマイクロスコープの有用性」の続きとして、パーフォレーションリペアを企画しました。日常臨床でパーフォレーションに遭遇することは決して多くはありません。しかし、一度遭遇すると色々と悩まされるのではないでしょうか? 処置としては、「止血して封鎖をする」といったシンプルなものですが、「封鎖時に根管を埋めてしまったらどうしようか?」「根管治療を優先すれば穿孔部の感染が拡大をしてしまうのでは?」など細かい術式や手順などを考えると様々な問題が出てきます。  部位によっては穿孔部が見えずに、盲目的に処置をせざるをえない場合もあるかと思います。しかし、マイクロスコープを応用することによって穿孔部が視認できればより確実性のある処置が期待でき、従来では困難だと思われる症例にも対応が可能になるのではないでしょうか?  穿孔周囲の軟化象牙質の確認、止血、穿孔部の封鎖と進んでも、それぞれにテクニックや工夫が必要ですし、封鎖材も近年では徐々に変わりつつあります。  本テーブルクリニックでは、封鎖材の利点、欠点を始めとして、パーフォレーションリペアの基本的術式、症例ごとによる工夫点などを討論し、今後の臨床応用の一助となればと考えております。

担当:折笠

 歯周病の約8割は、歯周基本治療で治癒させることができるといわれています。日常の歯科治療においてその時間的なウェイトも大きく、また多くの歯科治療の基本となる重要な治療と位置付けられます。一般的には衛生士がそのほとんどの業務を担いますが、当然われわれ歯科医師も同様な処置ができなければなりませんし、症例を読む眼を持ち、的確な処置を行い、衛生士との連携がうまくいく医院のシステムつくりも考えなければなりません。
 今回、特に歯周基本治療に力を入れ、多くの結果を出されている牧野明先生に、実習を交えながら治療の進め方、注意点、手技、衛生士教育等お話いただきたいと思います。


夜の部屋
「非歯原性歯痛の診療ガイドラインについて」和嶋浩一先生

担当:千葉

 日本口腔顔面痛学会は一昨年、非歯原性歯痛の診療ガイドラインを作成し、広く啓蒙に努められています。日本歯科医師会雑誌の昨年11月号の論文、あるいは今年から始まった歯界展望の連載ですでにご存知の方も多いことと思います。今回は学会事務局長をされている慶應大学医学部歯科口腔外科教室の和嶋浩一先生よりお声をかけていただき、本会でそのガイドラインについて紹介いただくことになりました。症例報告だけでなく筋・筋膜疼痛の圧痛診査、神経障害性疼痛のallodyniaの診査の実習も行っていただくことになりましたので、的確な診断のために重要な診査をマスターするよい機会です。
 ベテランになっても患者の訴える痛みを理解することが難しいときがあります。「患者が痛いと言うから」という理由だけで原因不明のまま歯を抜くことのないよう、しっかりとお話をうかがいたいと考えています。