2018 新人発表事前抄録



咬合支持の確保に努めた症例
稲垣 伸彦 (卒後13年 歯考会)
【患者概要】
患者:60歳 女性  主婦
初診:2009年5月
主訴:奥歯の違和感、歯が浮いた感じがする
歯科的既往歴:3〜4年前に右上7番を歯周病により抜歯
歯式:
【要旨】
 患者は60歳の女性、臼歯部の違和感、歯が浮いた感じがするということで来院された。欠損は右上の7番のみであったが、左上の7番が残根状態で、左右の咬合支持は6番までであった。また下顎小臼歯部においては叢生により、機能的な咬合接触が損なわれている部位も認められた。最後方歯となっていた6番は、いずれも側方干渉を認め、歯の動揺が存在していた。また歯周炎の進行が認められることからも、咬合性外傷が存在し、負担過重であると思われ、さらには前歯部においても垂直性骨吸収と歯の動揺を認めた。
 将来的に歯を失っていくことを危惧し、歯周治療を行い、咬合支持域を改善することで歯周炎に罹患した歯への負担軽減を図った。左上の6番は抜歯となったが、左上の7番をなんとか温存することで、左側の7番までの咬合支持を確保した。右上7番相当部に対しては、右下8番を移植したことで、右側の7番までの咬合支持を回復した。下顎の小臼歯部の叢生に対してはMTMにより、咬合接触状態の改善を行った。
 現在、メインテナンスへ移行して7年経過したが、比較的安定した経過を辿っている。

【まとめ】
  • 咬合に参加していなかった歯を咬合支持に加えたことで、歯周炎罹患歯の負担軽減が図れたと考えております。
  • 予後に不安を残す左上の7番の補綴に関しては、術後の対応、メインテナンスのしやすさを考慮し、二重冠にて対応しました。
  • 咬合状態の維持、歯周炎の再発に注意しながら今後も管理させて頂きたいと思います。
キーワード:【歯の移植】【MTM】【咬合性外傷 】



支台歯に智歯を用いたテレスコープデンチャーの一症例
片山 建一(卒後 14 年目 KDM)
【患者概要】
患者:男性、80歳 自営業
初診:2015年10月
主訴:右下で咬むと痛い
歯式:
【要旨】
 患者は80歳の男性。右下臼歯部の咬合痛を主訴に来院。歯科へのメンテナンスは定期的に通っていたため、予後不良歯があることは自覚しており、今回抜歯を含めた治療を行うこととなった。EichnerB1からB3へ移行する局面であり、大幅な咀嚼能率の低下が予測された。年齢80歳と高齢であったが、全身状態は良好で、健康に対する高い関心を持ち、とても几帳面な性格であった。今回が初めてとなる義歯は、できるだけ装着感がよく、術後対応がしやすいテレスコープデンチャーによる二次固定を選択した。
 抜歯後早期に治療用義歯を装着し、義歯の形態を模索していった。下顎智歯 を支台歯に用いることで、中間欠損に対する片側性義歯のシンプルな設計になるよう努めた。また、咬合力が強い患者であったため、智歯の歯根膜感覚を活かすことも重要だと考えた。一方で、剪断応力が加わる部分で度々治療用義歯の破折が起こり、最終的に作製した義歯の咬合面も、同部への応力と著しい摩耗が早期に生じた。臼歯部咬合面の摩耗を予防するため、咬合面をメタルへ置換したが、力のコントロールや支台歯の変化についても今後注意深く対応していきたい。

【まとめ】
  1. 初めて義歯を使用する健康な80歳の患者に、テレスコープデンチャーによる二次固定を選択した。
  2. 下顎智歯を支台歯に用い、中間欠損に対する片側性義歯のシンプルな設計になるよう努め、智歯の歯根膜感覚を活かすことも重要だと考えた。
  3. 剪断応力に対応するため咬合面をメタルに置換したが、力のコントロールや支台歯への配慮も今後必要と考える。
キーワード:【二次固定】 【下顎智歯 】 【剪断応力 】



動揺歯への対応と補綴設計に苦慮した一症例
関口寛之(卒後19年 火曜会)
【症例の概要】
患者:60歳 女性 主婦
初診日:2012年10月
主訴:メンテナンス希望 たまに右上が腫れる
性格:明るい 清楚
歯式:
【要旨】
 予後不安な歯牙が多く残る時、補綴物の連結範囲や補綴設計に悩みます。
本症例は、一次固定を希望する少数歯欠損の歯周病患者に対し、連結範囲と補綴設計に迷いながら治療を進めていきました。
 上顎には、2年前に遠方の歯科医院で治したというMBブリッジが装着されていました。
カリエスやペリオの問題を抱えたまま装着された自費補綴物を外すことが出来ず、妥協的なメンテナンスを行いながら経過を見ていきました。
その後、患者との信頼関係が構築されるのを待って、少しずつ治療に介入していきました。患者の義歯への嫌悪感や審美性への要求、歯根の形態不良などに悩みながら処置を進めました。
当初は患者の一次固定の希望を叶えるべく、テンポラリーにて連結範囲を模索していきました。
 多くの連結範囲のテストを繰り返しましたが、動揺を抑え込むことは出来ず、予後不安な歯を抱えていること、清掃性等を考慮した上で、最終的に全ての歯牙を取り込んだ二次固定の義歯にて対応していくことになりました。

【反省とまとめ】
  1. 連結範囲が広くなり、無理な補綴設計になってしまいました。
  2. 患者の希望する一次固定を叶えることが出来ませんでしたが、最終的に満足して頂けるように経過観察を行っていきたいと思います。
  3. 基本治療の技術不足を痛感しています。
補綴設計や治療の流れに対し、皆様のご批判を仰ぎたいと思います。
ご指導の程宜しくお願い致します。
キーワード:【劣形根】【連結範囲】【テレスコープ】



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