2019 新人発表事前抄録



術後対応を意識した片側テレスコープ義歯
小野 恒佑(KDM  卒後11年)
【患者概要】
患者:64歳 女性  主婦
初診:2017年8月
主訴:歯を残したい。歯がないところの相談をしたい。
歯式:

【要旨】
 患者は64歳女性で初診日は2017年8月です。主訴は歯をできるだけ残したい、歯がないところの治療方法を相談したいとの主訴で当院を受診されました。性格はサバサバしており、週に3回程度ジム通いをする健康に対しても意識の高い方です。
 歯科既往歴は3年程前に左上に他院でインプラント埋入を行い、その後上顎臼歯部は元々動揺していた歯が何度か腫脹したため抜歯し、前医で欠損部位にまたインプラントと言われ、疑問を感じ転院を決めたとのことです。歯周ポケット診査で限局的な歯周病の進行を認め、特に上顎両側臼歯部は動揺はないものの付着が少なく、根分岐部病変を有しておりました。また既存インプラントも存在しており、患者の希望や違和感の軽減などを考慮し、欠損 補綴に片側タイプのテレスコープ義歯を2つ作製することで対応しました。
 術後経過が短い症例ではございますがよろしくお願い致します。

【まとめ】
  • 支台歯の清掃性への考慮と既存インプラントとの共存を意識し、2次固定を選択しました。
  • 初めての義歯において違和感の軽減を目指し、片側処理で対応しました。
  • 今後将来的な両側性義歯への理解や13番切削回避のための14番へのインプラント植立等の了承を得られるかどうかが課題と思われます。
キーワード:【根分岐部病変】【既存インプラント】【補綴設計】



患者要素に苦慮したすれ違い咬合症例
高野 遼平(無門塾 卒後12年)
【患者概要】
患者:女性、洋服デザイナー
初診:2012年12月
主訴:入れ歯が合わない
歯式:

【要旨】
 患者は入れ歯が合わないことを主訴に来院された。職業は洋服デザイナーをしており、仕事が多忙な方だった。性格は非常に頑固で、前医に対して自分の希望を言い過ぎて、関係がうまくいかなくなり、転院されてきた。初診時から装着感の良い義歯を強く希望しており、1年前に発音と装着感のために咬合挙上をした既往があった。本症例の問題点は左右的すれ違い咬合、高度に吸収した顎堤、乱れた咬合平面であった。
 旧義歯より咬合高径を低下させた治療用義歯と旧義歯の両者を同時に活用して、咬合高径や床外形などの設定を模索しつつ、患者との信頼関係構築を図った。下顎を両側遊離端欠損としたことにより、義歯の安定と患者の咀嚼感が向上した。上下顎プロビジョナルデンチャーの動態と装着感を再検証した後に、欠損部には金属床義歯を装着し、2015年3月に補綴処置を終了した。
 補綴終了後4年が経過したが、患者の健康観向上と咬合力が強くないことが 幸いして、何とか大きな問題なく経過している。多忙でストレスが多い日々は継続しており、今後も注意深い経過観察が必要である。

【まとめ】
  1. 顎位の異なる2つの義歯の活用が咬合高径と形態を探る過程に寄与した。
  2. 動きの少ない金属床義歯による安定した咬頭嵌合位が得られた反面、支台歯と顎堤には大きな負担を強いている。
  3. 力の問題があまり無いことに助けられているが、補綴後に抱えている不安要素は多く、患者要素を考慮する重要性と難しさを再認識した。
キーワード:【すれ違い咬合】 【2つの義歯】 【患者の性格】



自然移動を用いて歯の保存に努めた症例
石塚 良介 (札幌臨床歯科研究会 卒後17年)
【患者概要】
患者:54歳 女性 会社員
初診日:2011年7月
主訴:右上奥歯の歯肉の腫れと歯がしみる
歯式:

【要旨】
 患者は54歳の女性で右上臼歯部の歯肉腫脹と知覚過敏を主訴に来院した。
 臼歯部口蓋側の歯頸部、歯間部のプラークコントロールが不良で、辺縁歯肉に限局した発赤・腫脹が認められた。右上7、左下7は他医院にて咬合調整されていたが、病的な歯の移動による早期接触が認められ、動揺度は3度であった。また、冷水痛が臼歯部に強く認められた。エックス線所見では、臼歯部に垂直性骨吸収が認められ、特に右上7、左上7、左下7では根尖付近までの骨吸収を認めた。また、根分岐部病変が右上7と左下7に3度、他の大臼歯部も1〜2度認められた。さらに、ブラキシズムの自覚もあった。
 患者は歯を保存したいという強い思いがあり、非常に真面目な性格であった。 徹底したプラ−クコントロールとともに、咬合性外傷の除去(咬合調整・歯の自 然移動・側方運動路の付与)を行い、歯肉の炎症の改善と左右上7、左下7、右下6の自然移動を確認した後に、ルートプレーニングを行った。再評価において回復力は高いと診断した。分岐部3度である右上7のDB根を抜根と左下7歯根分割を施行したのち、補綴処置を行いSPTへ移行した。
 初診時から8年・SPT移行後約5年経過するが、予後不安な右上7を含め比較的安定した経過を維持している。

【まとめ】
  1. 咬合性外傷が増悪因子として強く関与していることが疑われたため、外傷性因子を減らすために、力のコントロールとして自然移動を行った。
  2. その結果、臼歯部の歯槽骨と歯周ポケットの回復が得られたと考えている。患者の歯を保存したいという強い気持ちもあり、プラークコントロールも含めて現在のところ安定した経過を維持している。
  3. 右上7の動揺歯に対しては、当初固定を避け、単冠処置を行ったが、SPT経過4年後に動揺が増加したため、暫間固定で経過観察中である。
キーワード:【自然移動】【咬合性外傷】【重度歯周炎】



臼歯部咬合支持と偏在
中舘 正芳(火曜会 卒後18年)
【患者概要】
患者:女性 66歳 看護師
初診日:2013年11月
主訴:左上歯茎が腫れて痛い
歯式:

【要旨】
 患者は66歳の女性で、左上歯茎の腫れを主訴に来院した。当院には2000年から来院されており、その13年間で咬合支持歯を4本喪失していた。その後上下顎に義歯を製作していたが、上顎は違和感が強く下顎義歯のみ使用していた。また主訴である左上23に加えて、その他の残存歯にも二次カリエスが生じていたため、全顎的な治療を行うことになった。
 下顎前歯部は著しく咬耗し、顎位低下が疑われる状態だった。しかしタッピ ングが安定していたことから、まずは既存顎位にて上下治療用義歯を製作した。
 その後右側犬歯部の咬合接触を基準に上顎前歯部の処置を進めたが、予想以上に力の要素が強く、義歯の咬耗により更なる顎位低下を招いてしまった。
 その後咬合高径を回復することで、何とか上下義歯装着までこぎ着けることができた。しかし振り返ってみると、下顎義歯設計の模索を後回しにしてしまい、臼歯部咬合支持が充分に回復されていないうちに上顎前歯部の治療を進めてしまったことが、様々な問題を呼び込む最大の要因だったのではないかと考えている。臼歯部咬合支持の大切さを、身をもって痛感した症例である。

【まとめ】
  1. 偏在症例では、下顎両側性義歯を安定させることが大切である。
  2. ヒストリーや現症から、症例の問題点を見極めることが大切である。
  3. 多くの失敗から、多くのことを学んだ。
キーワード:【咬合支持】【偏在】【ヒストリー】



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