■2025年 第44回 臨床歯科を語る会概要

蛇年は「変化」の年と言われます。2025年、臨床歯科を語る会もまた、新たな変化の年を迎え ます。
 昨年、臨床歯科を語る会の創設者である金子一芳先生がご逝去されました。
先生の歯科界への多大な貢献と、本会への尽力に改めて敬意を表するとともに、心よりご冥福をお 祈り申し上げます。
 金子先生亡きこれからの臨床歯科を語る会は、これまで築かれてきた伝統を大切にしながらも、 時代の変化に柔軟に対応していく必要があると考えます。 その中でも特に深刻な変化が、「若手歯科医師のスタディグループ離れ」です。 情報がスマホで簡単に手に入る昨今、自らの学びのためにスタディグループへ参加し、努力を重ね て成長しようとする若手は減少しています。
 スマホで手に入る情報は”インプット”に過ぎません。その情報を血肉とするには”アウトプット” が不可欠であることは、昔も今も変わらないはずです。
そんな今だからこそ、若手歯科医師には臨床歯科を語る会のモットーである”語る”つまりアウト プットが本当に必要なのではないかと考えます。
 ”虎の穴”のような厳しい雰囲気では若手が参加しづらいかもしれませんが、若手の先生が楽しく 学び、積極的にアウトプット出来る場を作ることが、これからの臨床歯科を語る会には求められて いると感じています。
 くしくも変化の年である本年、長きに渡ってお世話になった「クロスウエーブ府中」から、新た な会場「リンクフォレスト」(多摩センター)へと移ります。
伝統ある本会にふさわしい、素晴らしい会場での開催となります。
 これからの歯科界を担う若手歯科医師の皆様に、ぜひ参加していただきたいと思います。 もちろん、これまでの臨床歯科を語る会の伝統は守りつつ、ベテラン・中堅の先生方にも、年に一 度のこの祭典を存分に楽しんでいただければと思っております。少し形態は変わりますが、みなさ まが楽しみにされている”地酒の部屋”も存続できそうです。コロナを経てオンライン慣れされた方 もいらっしゃると思いますが、臨床歯科を語る会の醍醐味は、やはり現地での対話や交流にありま す。
 しばらく本会から足が遠のいていた方も、ぜひ久しぶりにご参加いただき、共に語り、楽しんで いただければと思います。
 不易流行をモットーにした ベテランから若手まで楽しめる企画を今年も練りに練りました。 みなさまのご参加を、心よりお待ち申し上げております。

2025年3月  語る会実行委員長 斎田寛之(火曜会)
全体会
1.アブフラクション“仮説”の現在地~熱狂の20世紀、検証の21世紀~
外来講師:黒江 敏史先生

担当:斎田、中山

 既に語る会所属のスタディグループで講演していただき周知の先生も多いかもしれませんが、講師である黒江敏史先生は2024年9月に出版された『非う蝕性歯頚部歯質欠損 -NCCL- 』の著者であり、1994年にアブフラクションを知り研究者そして臨床家として30年以上追いかけてきた先生です。
 『アブフラクション』といえば教科書の記載や国家試験にも出題され、歯頸部歯質の欠損に対して、アブフラクションの臨床診断が下されることは珍しくありません。しかし、アカデミアの世界に目を移すと、近年AAP、EFP、IADRといったメジャーな学術団体がアブフラクションに対して否定的な見解を示しています。この齟齬をどのように解釈したらいいでしょうか?
 アブフラクションが1991年に仮説として提唱された当時の科学的・臨床的根拠は、現代から振り返ると脆弱なものでした。しかし、驚くべきスピードで広まり、1990年代後半には実証された事実のように扱われるようになりました。21世紀に入って遅ればせながらアブフラクションの検証が進み、否定的な結果が蓄積されてきました。これがメジャーな学術団体のコンセンサスの背景です。この間の変遷を紐解き、アブフラクションの現在地を皆さんと共有したいと思います。

 
2.エンド難症例への対応 ~専門医・GP それぞれの見極め~
和達 礼子先生 倉富 覚先生 千葉 英史先生

担当:川上 斎田

 臨床歯科を語る会では長年、歯周病と力の問題に向き合ってきました。力のみでは歯周病は進行しないというのが一般論ですが、近年、力も骨吸収を起こすメディエーターとなりうるというメカニズムが明らかになって来ました。
 今回はすでに歯科雑誌やメディアなどでご活躍され、歯科における骨免疫学の第一人者であられる東京大学大学院医学系研究科の塚崎雅之先生と臨床歯科を語る会からは千葉英史先生、熊谷真一先生(他演者は未定)にご登壇いただきます。
 千葉先生・熊谷先生からは歯周病と力にまつわる臨床の疑問を提示していただき、塚崎先生からは免疫と歯周炎進行の関係、力と歯槽骨吸収の関係などについて最新の知見を踏まえながらわかりやすく解説していただき、その真相に迫りたいと思います。どうぞご期待ください。
分科会
1.咬合崩壊症例の治療ステップ ~治療用義歯をどう活用するか~

担当:長野、鎌田、三箇、片山

 欠損が進行し咀嚼機能の低下を伴ういわゆる咬合崩壊症例においては、予後不安な残存歯の混在や嵌合位が不安定なこともあり、治療方針の決定に苦慮する場面に遭遇します。
 治療を進めるにあたりどの指標を用いて症例を分析するのか、そして患者背景を考慮しながら補綴設計をどの様に検討していくのか。そこには治療用義歯の活用は欠かせません。症例の見方や補綴設計の考え方は、スタディグループあるいは術者によって多種多様です。
 そこで今回は若手からベテランまで様々な症例への取り組み方を供覧しディスカッションを行うことで、咬合崩壊症例の治療ステップを改めて考える機会にしたいと思います。

2.今あらためて 自家歯牙移植を考える

担当:斎田、南川、中山

 インプラントの確実性が上がった昨今ですが、同時にインプラント周囲炎などの問題も顕在化し、歯根膜を利用できる自家歯牙移植は、近年再び注目を集めるようになっています。
 周囲に為害作用をもたらしている歯や非機能歯を咬合支持に利用して機能させたり、歯周組織が破壊された部位に適応し、歯根膜を利用してその再生を図ることは、マイナスが少なくサステナブルで、生体にやさしい方法であり、今後ますます注目されるべき方法と考えます。
 臨床歯科を語る会では、これまで何度も取り上げられたテーマではありますが、あらためてその有効性や活用法に焦点をあて、インプラントにないその魅力に迫りたいと思います。また、ベテラン先生からは長期経過症例から見る自家歯牙移植の意義や生存率、注意点などについて、若手の先生からはこの10年で変わってきた術式や考え方などについてお話しいただきたいと考えています。
 これから自家歯牙移植を取り入れたい若手の先生から、長期経過を持つベテランの先生まで幅広いご参加お待ちしております。

3.成長期の上顎前突に対する早期矯正治療

担当:高野、苅谷、渡邉

 十数年前より早期矯正治療は注目を集め、現在では多くの一般歯科医の関心を引くようになりました。2023年の分科会「成長期の叢生における早期矯正治療を巡って」にて本テーマを初めて取り上げ、混合歯列期の叢生症例に対する知見の整理を試みました。その結果、症例の捉え方や留意点を中心に議論を深めることができ、骨格的不調和や機能に対する検証が今後の課題となりました。
 本分科会では叢生から一歩踏み込んで、上顎前突の早期矯正治療をとり挙げることとしました。上顎前突の早期矯正治療の有効性を支持する症例報告も存在する一方で、日本矯正歯科学会のガイドラインでは上顎前突の早期矯正治療に対して否定的な文献的見解が示されているのも事実です。症例供覧とディスカッションを通じて、症例の見極め、介入時期、治療法などを体系的にまとめ、理にかなった診断と対応を皆様と考える場にしたいと思います。
若手症例相談部屋

担当:片山、渡邉、小野

 今年も若手の先生方に、症例を通じて悩んだ診断や治療方針、さらには経過観察中のトラブルなど、臨床で直面した課題をご発表いただきます。今年のコメンテーターは、しんせん組の長谷川善弘先生です。日頃抱える疑問や「今さら聞けない」と感じる内容にも触れることで、若手の先生方にとっては貴重な経験になるかと思います。皆様のご参加をお待ちしております。
ポスター発表

担当:小野

 今年も例年同様にポスター発表を実施いたしますが、これまでより内容を充実させ、発表枠を従来の2枠から最大6枠へと拡大しました。より多くの方にご発表いただけるよう、公募形式とし、発表の機会が少ない先生方はもちろん、若手からベテランの皆さままで、どなたでもご応募いただけます。
 テーマも幅広く受け付けておりますので、ぜひお気軽にご参加ください。皆さまのご応募を心よりお待ちしております。
夜の部屋
① 谷口ペリオ道場
担当:斎田、鎌田、高野

 今回の道場主は長年にわたり臨床歯科を語る会にて活躍されてきた谷口威夫先生です。1970年代、まだ歯科医院にアポイントシステムが一般的では無く、歯周病治療が確立されていない時代から谷口先生は患者さんに寄り添った歯周基本治療を実践されてきました。その中で、「患者さんの治す力を引き出すこと」を臨床哲学とし、「トータルから口をみる」という視点の重要性を提唱されてきました。このアプローチは歯だけでなく、患者さんの健康面や心理面にも配慮する歯科医療であり、オリジナリティ溢れる谷口ペリオの基盤となっております。
 本道場では若手の先生方に歯周病症例の提示をお願いし、谷口先生には長期経過症例を交えてご解説していただきます。歯周病治療の真髄に触れ、症例の見方や患者さんとの関わり方などを学び、明日の臨床に活かしていただければと考えております。皆様のご参加を心よりお持ちしております。


②私のオススメ あれこれ

担当:小野、三箇、南川

 今年は15年ぶりに会場が変わりますが、語る会ならではの地酒の部屋・夜の企画 共にこれまで通り継続します。今回の夜の企画では、多くの先生方が興味はあるけど中々知ることのできない、あの先生が使っている『オススメのあれこれ』を紹介して頂きたいと思います。
 良い歯科臨床のためには、知識や技術、経験、院内環境・・・など様々な要素が必要かと思います。中でも歯科用器具・器械や材料、デジタル関係機材の進歩は目覚ましく、日常臨床には切っても切り離せないトピックかと思います。語る会会員の先生方でしたら、とてもマニアックな道具や自ら考案されたもの、発想の転換や工夫でアッと思わせるような使用方法をされている方もみえると思います。また、医療DXの波も確実に押し寄せており、試行錯誤を繰り返して医院にシステムを導入されている先生もいるのではないでしょうか。
 臨床で使っている便利な材料・器具に限らず、スタッフにも使ってほしいようなマテリアル、医院に取り入れると良いシステムなど、知れば明日から有益になるような企画にしたいと考えています。
 当企画後はそのまま地酒の部屋の会場として使用しますので、若手からベテランまで、オススメのあれこれを肴に地酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。




臨床歯科を語る会実行委員会
実行委員長:斎田寛之(火曜会)
実行委員: 小野 仁資(しんせん組) 片山 建一(KDM) 鎌田 征之(火曜会)
      三箇 満(NDの会)  長野 泰弘(救歯会) 南川 剛寛(KDM)
      渡邉 拓朗(包歯研) 
  新任: 苅谷 憲明(救歯会) 高野 遼平(無門塾) 中山 伊知郎(富山劔の会)