1981年に発足した臨床歯科を語る会は、今年で45年目を迎えます。
全国の開業医が集い、日々の臨床を語り合うこの会は、時代の変化の中にあっても「患者を真ん中に据えた歯科臨床」を大切にしながら歩みを続けてきました。
近年、歯科医療を取り巻く環境は大きく変化しています。デジタル技術の進歩により、治療はより迅速に、より効率的に行えるようになりました。一方で、方法や結果ばかりが注目され、患者一人ひとりの背景や治療に至る過程、そしてその後の経過が見えにくくなってきているようにも感じます。私たち臨床歯科を語る会がこれまで大切にしてきたのは、まさにその「過程」と「経過」です。患者の人生に寄り添い、悩みや不安に向き合いながら積み重ねてきた地に足のついた歯科臨床は、今だからこそ、あらためて見つめ直す価値があるのではないでしょうか。
もちろん、デジタル技術やジルコニアをはじめとする新素材による治療システムは、これからの歯科臨床において避けて通ることはできません。守るべきものを守りながらも、変わるべきところは柔軟に変わっていく。その姿勢こそが、これからの時代に求められていると感じています。
また、この45年間で歯科を取り巻く情勢は大きく様変わりしました。特に昨今の金属価格の高騰は、私たちの日常臨床に直接的な影響を及ぼし、これまで大切にしてきた治療戦略の見直しを迫っています。
これまでタブー視されがちであった医療経済や医院経営の問題、医業としての歯科と患者のための医療とのバランスといったテーマにも、今年は正面から向き合っていきたいと考えています。
「不易流行」を掲げて4年目となる今年も、臨床歯科を語る会が大切にしてきた“変わらない歯科臨床”と、時代とともに“変わりつつある歯科臨床”の両面に目を向けながら、活発な議論と交流が生まれる場にしていきたいと思います。
とりわけ、臨床経験を積み重ねる一方で、自身の診療スタイルや進むべき方向性に悩み始める世代にとって、本会で交わされる議論や症例の積み重ねは、日々の臨床を見つめ直す大きな示唆を与えてくれるはずです。
昨年より会場を多摩センターのリンクフォレストに移し、今年は2年目となります。会場の都合により、開催は例年より1週早い6月最終週となります。
これまで本会を支えてこられた先人たちの熱い思いと情勢に敬意を表しつつ、新しい風も取り入れ、今年もベテランから若手までがともに学び、楽しめる企画を用意しました。
毎年ご参加いただいている方はもちろん、しばらく足が遠のいてしまっている方、そしてこれからの歯科臨床を真剣に考えたい若い先生方にも、ぜひご参加いただければ幸いです。
今年もまた、熱い議論と出会いに満ちた夏を皆さまとともにつくっていきたいと考えています。
語る会実行委員長 斎田寛之(火曜会)
| 全体会 |
全体会 (6/27 10:30〜12:30)
1.臨床観察に基づいた過不足のない診療をめざして
講師:千葉 英史先生
担当:斎田、鎌田
2時間お話しする機会をいただきました。
私の歯科医人生は、最終コーナーをまわりコースは直線、ゴールも見えて、末脚は切れるのか、甘いのか、というところにさしかかっています。自由に走りながら後者でもいいかな、などとぼんやり考えていたところを、斎田実行委員長に最初の鞭を入れられて、ちょっと早いのではと思いつつ、あがいてみることになりました。
臨床歯科を語る会は、臨床における視点や考え方を、火曜会と同様であれば深く、異なれば新しく学びながら、自身の臨床を見直すとても良い機会であると考えています。
今回改めて振り返り、この会で学び、深めてきたつもりである「臨床観察に基づいた過不足のない診療」をテーマにお話ししてみたいと思います。具体的には今後煮詰めていきますが、以下のようなことから多少の取捨選択をして話題にする予定です。
みみず腫れのお尻を撫でながら準備に励み、懸命に発表いたしますので、会場でご意見をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
- 臨床観察について
- 2枚のデンタルから始まった私の臨床観察
- 観察とは「物事の真の姿を間違いなく理解しようとよく見る」こと
- 「経過からみた局部義歯の設計」という金字塔
- スケーリングの時期も自然移動もテレスコープ義歯も観察から生まれた
- 歯周病治療における観察…垂直的動揺、不透過性の高い骨梁像、個体差など
- 過不足のない診療について
- 患者にとっての”過不足のない診療”を考える
- 「は くち ひと」ではなく「ひと、くち、は」で
- オーバートリートメントでは必要十分な診療はわからない
- 決め打ちではなく試行錯誤が個別対応の基本
- 迷うときは天秤にかける
- 25年以上経過症例を通じて考える
- 中等度以上の歯周炎症例から教えられること
- 患者の加齢変化にどう対応するか
- これまでを見直し、これからにフィードバックするための数値化
- 歯の保存に努めてきたことはよかったのか
- 時代おくれは恥ずかしくない
全体会 (6/28 9:00〜12:30)
2.井上 孝先生に聞く、力に対する生体反応の真実~天然歯・インプラントにまつわる臨床仮説~
担当:斎田、高野、渡邊
「力への対応」は、臨床歯科を語る会では長年議論されてきた重要なテーマです。一昨年の全体会では「歯周病と力」を掘り下げましたが、2026年はその続編として、力が天然歯・インプラント双方の周囲組織に与える影響に焦点を当てます。本全体会では、天然歯における力の診断に精通している森本達也先生、インプラント補綴の長期経過から多くの知見を有する武田孝之先生に力の影響をどう捉えているのか、臨床仮説や疑問を提示していただきます。それらの問いに対し、東京歯科大学名誉教授の井上孝先生より基礎学術的な視点から解説をいただきます。臨床家の臨床実感と病理学者の論理が交錯するディスカッションを通じて、力に対する生体反応の真実に迫ります。どうぞご期待ください。
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| 分科会(6/27 14:30 〜 17:30) |
1.歯髄保存の適応症と限界
担当:高野、南川、渡邊
MTAやマイクロスコープの普及により、深在性う蝕に対する歯髄保存は予知性の高い治療となりました。一方で、症例選択や術中判断を誤ると予後不良を招く可能性があり、断髄後の根管石灰化が将来的な根管治療を困難にするという新たな課題も浮き彫りになっています。
本分科会では、歯髄保存に関して豊富な知見をお持ちの辺見浩一先生を外来講師としてお迎えし、成功症例だけでなく、「判断に迷った境界症例」や「抜髄に至った症例」にも焦点を当て、その本質に迫ります。また、ステップワイズエキスカベーションやシールドレストレーションといった「露髄を回避する戦略」の有効性と限界についても再考します。症例提示はキャリアを問わず幅広く募集いたします(5名前後の予定)。皆様と明日からの臨床に直結する活発な議論ができればと考えています。
2.少数歯欠損症例における治療戦略
担当:斎田、中山、三箇、小野
少数歯欠損症例は欠損歯列のはじまりであり、ここでの対応が未来の欠損進行を左右します。義歯、ブリッジ、接着ブリッジ、インプラント、自家歯移植、短縮歯列などの選択肢が対応として考えられ、その選択は患者要素、口腔要素、歯の要素など様々な側面からの考察が求められます。
今回は少数歯欠損症例(5歯以内欠損)に焦点を当て、その治療戦略をディスカッションしていきます。また、それらの選択においては“最小限の介入”をテーマとし、その意義などを深掘りしていきたいと考えています。
日常臨床で誰もが一度は立ち止まる「選択と迷い」を共有し、具体的な症例を通して考察します。
接着ブリッジについては、その分野の第一人者である大谷一紀先生(東京都開業)に、義歯については鷹岡竜一先生(火曜会)、インプラントについては熊谷真一先生(包歯研)に症例提示をしていただく予定です。(その他の演者は現在未定です。)
3.重度歯周炎 (Stage IV) を伴う咬合崩壊症例への対応
担当:長野、鎌田、片山
本分科会では、昨年に引き続き「咬合崩壊症例」をより具体的に議論することを目的に症例条件を「重度歯周炎 (Stage IV)」かつ「残存歯数 11〜17 歯(金子の分類 Stage 3)」と設定しました。歯周基本治療における炎症と力への対応をはじめ、プロビジョナルレストレーションの役割、下顎位の評価、動揺歯への向き合い方、そして最終補綴処置への移行判断まで、炎症と機能の両面をどのように捉え、どのような指標をもとに治療を進めていくのかについて、症例供覧とディスカッションを通じて共有していきたいと考えています。また、患者背景やQOLを踏まえた治療の進め方についても議論を深めていきます。
若手からベテランまで、それぞれの経験や視点に基づく症例への取り組みを共有することで、重度歯周炎を伴う咬合崩壊症例に対する「症例の捉え方」および「治療ステップ」を改めて考える機会としていきます。
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| 若手症例相談部屋(6/26 21:30~23:30) |
担当:苅谷、小野
今年も若手の先生方に、症例を通じて診断や治療方針に迷った点、さらには経過観察中に生じたトラブルなど、臨床で直面した課題をご発表いただきます。本年は、無門塾の山田浩之先生をコメンテーターとしてお迎えし、ご指導いただけることになりました。スタディーグループの垣根を越えて、山田先生をはじめ会場の先生方を巻き込みながら、日頃抱えている疑問や「今さら聞けない」と感じている内容にも踏み込むことで、若手の先生方にとって大変貴重な学びの機会になることと思います。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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| ポスター発表(6/27 13:40 〜 14:10) |
担当:小野
今年はより密度の高い発表・議論ができる場を目指し、発表枠を6枠から4枠に変更しました。公募形式となっており、発表の機会が少ない先生はもちろん、若手からベテランの皆さままで、どなたでもご応募いただけます。
テーマも幅広く受け付けておりますので、ぜひお気軽にご参加ください。皆さまのご応募を心よりお待ちしております。
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| 夜の部屋 |
医療と医業のはざま 企画:押見一先生(一の会)
担当:斎田、南川
金属価格の高騰がかつてない水準に達し、保険診療でメタルクラウンを装着すると赤字になるとも言われる現在、患者に寄り添った良質な治療を行おうとするほど、医院経営の重みがのしかかる状況となっています。
私たちは患者のための医療を行うと同時に、歯科医院スタッフやその家族、そして自分自身の生活を守らなくてはなりません。医療と医業をどのように両立させるべきなのか。この長年タブー視されてきたテーマに、今年は正面から切り込みます。
一方で、保険制度もまた時代の変化に合わせて変わりつつあります。より多くの患者の口腔健康を守るために、制度をどのように理解し、どのように活用していくべきなのか。その可能性と限界についても、率直にディスカッションしていきます。
本企画は、押見一先生(一の会)をはじめ、医療経済に精通した医療ジャーナリストの秋元秀俊様、愛知県一宮市から松岡力先生(PGI 名古屋)、完全自由診療へと舵を切った関口寛之先生(もくあみ会)、そして保険診療を誰よりも深く知る松島良次先生という、きわめて多彩で豪華なメンバーでお送りします。
ここでしか聞けない本音の議論に、ぜひご期待ください。
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